娘さんの死にはあらゆる可能性が考えられるということである。刑事は途方に暮れ、私のところに相談に来たのである。

刑事との検証

 資料を見ながら「先生、どうなんでしょう」と聞くので、「じゃあ一つひとつ見ていきましょう」と言って検証してみることにした。

 まずは気管支ぜんそくの発作による病死の可能性。ぜんそくというのは、呼吸運動で息を吸うことはできても吐くことができない状態のことを言う。だから解剖すると、肺が膨らんでいて、周りの肋骨の間に肺が食い込むような形になっている。

 肺にメスを入れるとシューッとしぼんだようになる。

「解剖に立ち会ったとき、肺は風船のようにしぼんだか」と聞くと、「いえ、そうではありませんでした」と刑事は答えた。「じゃあ、病死ではないよ。気管支ぜんそくの発作で死亡した人を解剖したことがあればすぐ分かることだ。

「じゃあ次は自殺の可能性だ」。自殺は、自分で紐などを首に巻き、引っ張る。やがて意識を失い手を離す。

 その離したときに絞めたところが緩んで息ができるようになれば、息を吹き返すことになる。だからぎゅっと絞めてかた結びをし、緩まないようにする。

 そうすると手を離したとしても紐はしまったままで、やがて死ぬ。

「首にそのような紐はあったの」と聞くと、「いえ、発見者の母親にも確認しましたが、そのような紐は巻きついていなかったと言っています。紐の跡もありませんでした」「じゃあ、自殺による窒息死の可能性もない。残るは他殺だよ」と言うと、「先生、それが他殺は絶対無理な状況なんです。だから困っているんです」と言う。

「どういうこと?」と尋ねると、事件が起きたときの様子を話した。

 女性が住んでいた家は、築何十年という昔ながらの家で、玄関を入ると目の前に階段があった。一階には彼女のおじいさん、おばあさんの部屋がある。

 そしてその階段を上らないと彼女の部屋の二階には行けない。