
目の前の死体は何を伝えたいのか――。元監察医の上野正彦氏は「轢き逃げされたとか絞殺されたとか、突然大変なことを言い出す死体もある……」と語る。これまで関わった様々な事件や事故をもとに、法医学の視点から私たちの身近に潜む「変死」の実態を取り上げる。本記事では、上野正彦氏の最新刊『死体はこう言った』(ポプラ社)から内容を一部抜粋・編集して紹介します。
「変死体」として検死される…
ある保険会社が40~79歳の男女792名を対象にこんなアンケートをとった。
「あなたにとって理想の最期とは?」
すると、実に6割以上の人が「心筋梗塞などで、ある日突然死ぬ」と答えたそうである。「ポックリ死にたい」ということなのだろう。
その理由としてダントツに多かったのは、「家族にあまり迷惑をかけたくないから」というものであった。
心筋梗塞というのは、心臓に血液を送っている冠状動脈の血管が詰まって、心筋(心臓の筋肉細胞)に血液が流れなくなるものである。
酸素不足になった心筋が壊死し、心臓をわしづかみにされたような激しい痛みが続き、冷や汗や吐き気が同時に起こることもある。
最近の医学は進歩していて、急性心筋梗塞の死亡率は数%程度と減少しているが、それでも他の病気に比べれば、死に至る確率は高いと言える。
症状が夜中のうちに起これば、家族が気付いたときには、布団の中でポックリ逝っているということになる。
しかし、監察医の立場から一言言わせてもらうと、心筋梗塞などである日突然ポックリ死んだ死体は、「変死体」として扱われる。