元気だった人の突然死の場合、なぜ死亡したのか臨床医だけでは判断がつかないから死亡診断書を書くことができない。

 そこで、24時間以内に警察への通報が行われ、死因をはっきりさせるために検死、場合によっては解剖を行う必要が出てくる。

 元気だった高齢者が、病気でも事故でもなく、年を重ねて徐々に心身が衰えて亡くなってしまうことをかつては「老衰」とし、「寿命です」などと言ったが、今の医学では死因を「老衰」と表現することはほとんどない。

 それ故に、死因を突き止めるために検死、解剖をし、心筋梗塞などといった診断をつけなければならない。

 老衰によって自然に死にたいというのは、日本の古くからの死生観であろう。

 ある日突然死ねば家族の迷惑にならない、あるいは自分自身も苦しまずに往生できる一番ベターな死に方と思っているのだろう。

 しかし、ポックリ死ねば、それは変死体となるのである。

心臓麻痺は死因ではない

 健康になんの問題もなく、泳ぎの得意な人が背の立つプールで溺れたり、幼い子どもが数センチのビニールプールで、溺れてしまったりすることがある。

 こんなとき、医師の「心臓麻痺です」という言葉に多くの人が納得してしまう。

 しかし、心臓麻痺は厳密にいえば「死因」ではなく、「症状」である。

 麻痺とは機能停止のことだ。前に述べた通り、脳・心臓・肺の三つの臓器の機能停止をもって死とするが、それはなんの原因もなく突発的に起こるものではない。なんらかの原因があって引き起こされる症状だ。

 死因とは、その症状を引き起こした原因となる疾病のことを指す。

 したがって心臓麻痺というのは、ある意味医師のごまかしと言えるだろう。そんな疑念が、私の研究のきっかけになった。そして、辿り着いた一つの解答が「錐体内出血」である。これは大発見であった。

 現在では法医学の教科書にも載っている。これは体のバランスを司る三半規管の機能を低下させるものだ。