価値創造の民主化には、(1)顧客・従業員・株主・債権者・取引先・社会・経営者などの利害関係者みんなが仲間として一緒に価値創造に取り組む、(2)価値創造に必要な知識が組織内で幅広く教育され共有される、といった特徴があります。

エリートが奪い合うアメリカ式VS
みんなで豊かになる日本式

 価値創造の民主化においては、すべての人がそれぞれの立場から価値創造に貢献する役割を持っています。

・上司の役割は部下の価値創造の障害であるムダな仕事を取り除くこと

・顧客の役割は、製品の価値を理解し消費を通じて経営の原資を提供すること

・経営者の役割は豊かな共同体を永続させるべく次の経営者を育てること

・従業員の役割は次の経営者候補として仕事に責任を持って取り組むこと

・株主の役割はアイデアと能力を持つ人の資金不足を乗り越えさせること

・重鎮の役割は後進の成長を自分事として喜び、経験知を後世に残すこと

・政府の役割は国内インフラ整備と外交で企業成長の制約を取り除くこと

 すなわち、仕事を楽しく作り替え、生産性も上げる人が産官学のリーダーとして尊敬される社会に向かうのが価値創造の民主化でした。「みんなで豊かになる」という発想です。

 日本の資本主義の父・渋沢栄一も「一個人がいかに富んでいても、社会全体が貧乏であったら、その人の幸福は保証されない。その事業が個人を利するだけでなく、多数社会を利してゆくのでなければ、決して正しい商売とはいえない(『渋沢栄一自伝 雨夜譚・青淵回顧録(抄)』〔角川ソフィア文庫〕)」と説いていました。

 価値創造の民主化は「誰もが価値を生み出せる」という前提に立っています。だからこそ、多人数に薄く広く経営教育をおこなっていきます。そして、価値は好きなだけ生み出せばいいわけですから、報酬も比較的平等に配分していきます。

 これに対して、典型的なアメリカ式のMBA教育は、価値創造の主役をエリートに限定して、少人数に深く経営教育をおこなうわけです。そこでは希少な価値を奪い合うための経営戦略論が教えられ、価値創造からの報酬はエリートが独占しました。

松下幸之助が教える「部下に働いてもらうコツ」全然できてない会社が多すぎるだろ…同書より転載