価値創造の主役が人間だと誰もが分かるようになれば、人間にムダな労力を使わせるだけの仕事を減らし、他者が価値創造に集中できる状況を作り上げることが誰にとっても合理的な行動になります。
価値創造を“邪魔しない”ことが経営
松下幸之助の言葉と日本型経営の本質
実際に、松下幸之助も「部下に大いに働いてもらうコツの1つは、部下が働こうとするのを、邪魔しないようにするということだ(『商売心得帖』PHP文庫)」という言葉を残しています。
こうした信念に基づいて、他者を苦しめるだけのムダをなくすことで創造性を高める。肩書きに関係なくすべての人間が経営の仲間として尊重される。同時に従業員の給与も福利厚生も高まる。そうした好循環が生まれていたのが、価値創造の民主化の特徴でした。

日本式経営の本質は価値創造の民主化でした。終身雇用・年功序列・企業別労働組合などは本質ではなかったというのが筆者の考えです。
実際に、価値創造の民主化は高度経済成長期の中小中堅企業でも見られましたが、終身雇用・年功序列・企業別労働組合などはごく1部の大企業にしか見られませんでした。
このように、価値創造の民主化には、仕事を楽しいものに変えつつ、組織の創造性・生産性も上げる力があるわけです。ですから、価値ある知識を独占せずに組織内で共有するほうが長期的には個人にとってもメリットがあるといえるでしょう。実際に、高度経済成長期の日本企業にはそうした特徴がありました。
ここで、読者の方々には疑問がわいてきたと思います。現在の日本は価値創造の民主化とはほど遠いのではないか、と。まさにその通りなのです。日本は価値創造の民主化という日本企業の「強み」を捨てました。そして、その「強み」を愚直に取り入れたのはむしろアメリカ企業のほうだったのです。