実際には、業務におけるボトルネックなど他にも考える必要はあります(その場合はますます価値創造の民主化の強さが再確認されます)が、単純な思考実験においてもたった1人の天才よりも1000人の努力のほうが200倍優れているわけです。

 さらに、現実には、天才を活かすためにも周囲にそれをサポートする人たちがたくさんいる必要があります。つまり天才が天才として活躍できるためにも、価値創造思考を持った人たちが世の中にあふれる必要があります。

 価値創造の民主化には2つの発想転換があります。まず、「顧客・従業員・株主・債権者・取引先・社会・経営者などの利害関係者みんなが仲間として一緒に価値創造に取り組む」ためには、「資源は有限であっても、価値は無限でありうる」という発想転換が必要です。

土地や機械では価値は生まれない…
知識を共有する組織が勝つ理由

 さらに、「価値創造に必要な知識が組織内で幅広く教育され共有される」ためには「価値を生み出すのは、土地でも機械でもなく、知識である」という発想転換が必要でしょう。

 このとき「価値は創り合えるし、知識は土地や機械と違って共有しても減らない」わけですから、価値創造のための知識を独占するのは無意味です。しかも、知識は放っておいても広がってしまいます。それならば、いち早く組織内で経営教育を進めてしまって、創造性の高い組織にして豊かさを分配するほうがよいでしょう。

 しかも、価値創造の民主化は、仕事を楽しいものに変えながら生産性も向上できる可能性さえ持っています。なぜなら、価値創造の民主化によって、「価値を生み出す一番大事な資源は人間であって、価値創造の障害となるムダな仕事を取り除くのが経営の役目だ」という信念が強まるからです。

 無意味な会議や誰も読まない書類作成に時間を使わせるのは、最重要資源のムダづかいということになります。

 多くの人が「仕事がキツイ」と感じる仕事は、価値を生む創造的な仕事ではなく、価値を奪うだけの無意味な仕事のほうでしょう。