中卒が大学院レベルの統計を操る…
それが戦後日本の強さだった
価値創造の民主化を推し進めたのは財界だけではありませんでした。東京大学の故・石川馨教授や日科技連等によって、品質管理の知識がごく簡単な7つの思考道具(=QC7つ道具)としてまとめられて無償で日本中に配布されたのです。こうして、価値創造の民主化に中身がともなうようになりました。
チェックシート、特性要因図(魚の骨図)、散布図など今でもビジネス現場で使われる統計的品質管理の知識はこのときに普及したものです。アメリカでは大学院生しか知らないような統計学の知識を、日本では中卒・高卒で工場作業者となった人たちが使いこなすようになりました。
理屈は後述しますが、事実として日本式の価値創造の民主化は戦後から80年代までグローバル競争において勝利をおさめました。しかし、日本は平成に入ってから価値創造の民主化を捨ててしまい、代わりにアメリカの先端的企業家たちがこれを取り入れました。そこから日本企業の凋落が続いているのは周知の通りです。
価値創造の民主化は、従業員と経営者、株主と経営者、自社と取引先など、本来ならば利害が衝突し対立するはずの関係を協力関係に一変させました。しかも、これはよくよく考えれば論理的にも正しい経営のやり方でした。
なぜなら、「仮定1:どんな仕事も他者の協力があってはじめて実現できる」「仮定2:経営教育によって成果がわずかでも上がりやすくなる」という当たり前の仮定を置くだけで、「組織の経営成果は、経営教育がいきわたっている人数乗で向上する」という結論になるからです。
“1000人が1%成長”しただけで
成果が200倍になる
1000人の組織で考えてみましょう。仮定1から仕事の成果は掛け算で向上していくと考えます。普通の人は1の成果を上げるとしましょう。つまりスタート地点の生産性は1の1000乗で「1」です。
ここで、1人だけとんでもなく優秀な人に入れ替えたとします。生産性が普通の人の100倍という化け物みたいな天才です。すると、天才1人と普通の人999人がいる組織の場合の成果は100×1×…×1=100倍となります。
それでは、今度は1000人すべての能力をたった1%だけ向上させるとします。この場合の成果は、1.01×1.01×…×1.01=約20959.2倍となります。