今、あらためて振り返ってみると、猪木さんはプロレスラーとして本当に素晴らしい人だったよ。「プロレスは闘いである」という猪木さんが死ぬまで言い続けた言葉もまったくそのとおりだと思う。昔の新日本プロレスのレスラーたちは、そんな猪木さんのプロレスに対する姿勢に共鳴し、賛同し、また尊敬していたからこそ、あれだけの熱を生み出せたんじゃないかな。

 昨年(2024年)、『猪木のためなら死ねる!』っていうとんでもないタイトルの本が出たけど、本当にそう思わせてくれる人だったんだよ。

 俺も含めて、みんな純粋だったな。佐山(編集部注/佐山聡)なんかもそういうタイプだったから、若い頃、猪木さんに何かあったら命を張ってたような気がする。

 荒川さん(編集部注/ドン荒川)も「猪木さんのためなら命を張る」というようなことを言っていたことがあるけど、あの人はうまいこと生き延びそうな気がするな(笑)。前田(編集部注/前田日明)は俺らとはちょっと違うけどあいつも純粋で、猪木さんも前田をかわいがっていたよ。

モハメド・アリとの試合後
猪木さんは控室で泣いた

 昔、猪木さんが写真週刊誌に撮られたことがあって、相当頭にきたんだろうな、バキュームカーを手配して出版社に横づけしてクソをぶっかけようとしたことがあったんだよ。すげえことを考えるよな。

 その時、「私が行きましょうか?懲役が半年くらいだったら行ってきますよ。半年以上はちょっと嫌ですけど」って言ったら、猪木さんはなんと言ったと思う?「ありがとう。でも行かなくていいぞ」だった。まあ、鞄持ちをやっていた頃、猪木さんの盾になろうと思っていたのは本気だったよ。

 猪木さん自身が命懸けでプロレスの地位を向上させるために闘っていたからね。だから俺が観てきた猪木さんの最高の試合はアリ戦(編集部注/1976年6月26日、日本武道館で行われた異種格闘技戦で「世紀の一戦」とされた。結果は引き分け)だよ。

 プロレス史上、あとにも先にもあれ以上の緊張感がある試合はないだろう。あんな最高の試合を一度観たら、もう他の試合は観られなくなるよ。