俺はあの試合、セコンドとしてリングサイドのいちばん近くから観ていたんだ。猪木さんはいいコンディションをしていたよ。あの極限の緊張感のなか、3分15ラウンドを闘い抜いたんだからたいしたもんだよ。
当時、あの試合についてボロクソに言うヤツがたくさんいたけど、そいつらは何もわかっちゃいない。猪木さんはアリを倒すために、最後の最後まで必死に闘っていた。心から勝ちたいと思っていたからこそ、ああいった闘いになったんだよ。
試合後、控室をシャットアウトにして俺と猪木さんだけになった時間があった。猪木さんは黙って下を向いてたよ。最後のほうでは泣いていたな。俺もどうやって慰めていいかわからないから、少し離れたところで直立不動で立っているだけだった。もうあれから49年も経ったのか。間違いなくあれは、生きるか死ぬかの闘いだったよ。
心臓が止まるまで
俺は現役レスラーだ
俺は今75歳で、キャリアは52年になった。自分のベストバウトなんて聞かれても1つを挙げることはできない。プロレスラーにとって試合に出るのは毎日の仕事。「今日はいい仕事をしたなー」なんて思える日はたまにしかないし、しょっちゅうそう思っているヤツにはろくなのがいない。
本当に満足のいく仕事なんて、一生のうち1つか2つだよ。そのうちの1つをあえて挙げるとすれば、第1次UWFでやった佐山(スーパー・タイガー)との試合かもしれない。あの試合は、猪木さんの「プロレスは闘いである」という考えを、俺と佐山が形にした作品だったんじゃないかな。
この歳までリングに上がっていると「いつまで現役を続けるんですか?」なんて聞かれることがあるけど、余計なお世話だ。心臓が止まるまでだよ。
プロレスって人生そのものなんだよね。若くてハチャメチャな時も面白いし、円熟期も面白い。年を取って力が落ちてきても一生懸命やってる姿が誰かの励みになったり、死んでから伝説になる人もいる。
生き様を見せていけば、その年代その年代で何か観客の心に訴えるものが見せられるんだ。ゴッチさん(編集部注/カール・ゴッチ)が「誰でも歳は取る。だが、必ずしも年寄りになる必要はない」って言っていたけど、いい言葉だよな。俺もその言葉を胸に日々を生きているよ。