「マスメディアやネットを見てはいけない」「グルは絶対」地下鉄サリン事件から30年、脱会信者が語る「アレフ」の今取材に応じてくれた朝比奈凛さん(仮名) ※写真は本人提供/一部を加工しています

「ネットを見てはいけない」と孤立を促し…

 セミナー会場に指定されたのは、とあるマンションの一室だった。ヨガマットが敷かれた部屋には全身白ずくめの中年の男性講師がいて、同席したカウンセラーや先輩のほかに受講生はいなかった。

 セミナーの内容は、蓮華座や呼吸法など“ヨーガ”の実践もあったが、大半は座学だった。仏教において餓鬼や畜生など六道の世界で生死を繰り返すとされる「輪廻転生」や、ヒンドゥー教の終末思想「カリ・ユガ」といったさまざまな宗教観の解説に、「コロナ禍で救われるためには修業が必要」といった独自の理論が組み込まれていた。

 講義は1回3時間と長丁場だったが、知的好奇心が満たされる充実感から、朝比奈さんは週に3~4回のペースで通いはじめた。毎日念仏を唱えてその回数を報告するなど、課題にも真面目に取り組んだ。

 当時はセミナーの母体が宗教団体だとは知らず、さほど怪しさは感じていなかった。だが、今思い返すと、違和感をおぼえる場面は少なからずあった。

「『真理を理解している自分たちだけが救われる』という選民思想や、『マスメディアやネットを見てはいけない』『グル(宗教的指導者)との縁を守るためなら親との縁でも切らなければいけない』と社会からの孤立を促すような教えには危うさを感じました。でも、当時心が弱っていた私は、講師から『今のあなたには理解できないだろうけど、まずは教えを吸収することが大事』と強く言われて、逆らえませんでした」

 セミナーに10回ほど参加したところで、講師から「より高度な第二段階の学びに進みませんか?」と誘われた。年間2万円ほどの会費がかかると言われ、朝比奈さんは「宗教団体なのかもしれない」と疑念を抱きつつも、承諾。そこで初めて「私たちはアレフです」と正体を明かされた。