
道場に入って目にした、異様な光景
オウム真理教が地下鉄サリン事件を起こしたのは、朝比奈さんが生まれる前。教団や事件のことは報道を通して概要を知っている程度だった。
「アレフがオウム真理教の後継団体であることも知っていましたが、『オウムが起こした事件については賠償を進めている』と、あくまで過去の話だと説明されました。1ヵ月ほど一緒に勉強する中で講師への信頼が芽生えていたし、『もっと仏教の本が読めるようになる』と言われて好奇心をそそられ、入信に至りました」
入信後は24時間開放されている“本道場”に毎日通うよう指示された。だが道場に入った瞬間、異様な光景に戸惑ったという。
「大きな畳の部屋に通されると、祭壇があって麻原(彰晃元死刑囚)の写真とさい銭箱が置かれていました。部屋には信者たちが15人ほどいて、仕事帰りと思われるスーツ姿の中年男性、幼稚園生くらいの子どもを連れたお母さん、大学生風の若者など、世代も属性もバラバラでしたが、みんなどこか陰鬱(いんうつ)な雰囲気で……。セミナーでは『徳を積めば快活な人になれる』と言われていたのに、信者たちはボソボソと自信がなさそうに話したり、ヨレヨレの服を着ていたり、生気が感じられませんでした」
修行内容は、道場にある本やDVDでの自習だった。課題となる教材のタイトルが記載された手帳サイズの冊子を渡され、完了したものにはチェックをつけるよう言われた。仏教の本がたくさん読めると聞いていたのに、どれも麻原元死刑囚をグルとあがめて礼賛するものばかりだった。
アレフの教えでよく登場したのが、「グルは絶対」という言葉だ。入信前のセミナーでは、「グルに命じられたら火の中でも飛び込まなければいけない」「グルの次男は、チベットの高僧であるパンチェン・ラマの生まれ変わり。亡き麻原尊師に代わる崇高な魂がこの世にあることを信じてください」といった話もされた。