新年度スタートからはや2か月。社内外の人間関係で悩んでいる人も多そうだ。そんな人にお薦めなのが、「これは傑作。飛び抜けて面白い必読の一冊」「本当に悩みが解消した」と絶賛されている『「悩まない人」の考え方 ―― 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』(木下勝寿著)だ。今回は、「絶対達成コンサルタント」として数々の実績を残してきた横山信弘氏が本書から学んだ「管理職の悩みを解消するヒント」をお届けする。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)

年収200万ダウン! 悩みすぎた40代ベテランがとった行動に社長が激怒のなぜPhoto: Adobe Stock

ある日突然の出来事

「これは許せない!」

 社長が激怒した。そして、

「断固とした措置をとる」

 と、ある40代ベテラン社員に厳しい処分を下した。
 一体、何が起こったのか?

 今回は、40代ベテランの行動パターンと、その行動が引き起こした問題について解説したい。
 組織で変革を進めようとしている経営者や管理職の方々は、ぜひ最後まで読んでほしい。

新社長の挑戦と40代ベテランの壁

 M&Aにより親会社から新しい社長が就任した。
 40代前半の若きリーダーである。

 彼は就任早々、「どんどん新しいことをやっていくので協力してほしい」と全社員に訴えた。

 ライバル会社が成功を収めている事業に、この会社はまだ参入できていなかった。

 その遅れを取り戻すべく、新社長は大胆な事業計画を打ち出した。

 成功している競合会社の戦略を分析し、自社の強みを活かした形で市場参入を図ろうとした。

 ところが、ある40代のベテラン社員は、この計画に難色を示した。
 彼の口ぐせは、いつも「見たことも聞いたこともない」だった。

「そんなことをやって、うまくいった事例なんて、見たことも聞いたこともない」

 社長がデータや成功事例を示しても、彼の耳には入らない。

「うちの業界は特殊なんで」
「社長は、知らないんですよ。まだこの業界のことが」

 そして都合のいい情報だけを選び、否定し続けた。

「当社だって、同じように挑戦してきたんです。見てください、この過去の事例を」

 この40代のベテランは、まさに確証性バイアスにかかっていた。

 自分の主張を肯定するために、都合のいい情報ばかりを紹介し、反証する情報を「そんな話、見たことも聞いたこともない」と軽視し続けたのだ。

若手を「巻き込んだ」ことで起きた最悪の事態

 この事例で最も問題だったのは、40代のベテランが新入社員や若手を味方につけてしまったことだ。休憩時間やランチタイムに、

「見たことも聞いたこともないやり方で、うまくいくはずがない」
「新社長は、うちの業界のことをまったく理解していない」

 と若手社員に吹き込んだ結果、経験の少ない若手も同じように確証性バイアスにかかり、新しい取り組みに否定的な姿勢を示すようになった。

 それを目の当たりにした社長は激怒した。

 ベストセラー『「悩まない人」の考え方』にもあるように、せっかく可能性のある「素直なルーキー」を「偏見まみれの素人」にさせてしまったからだ。

 本来なら「悩まない人」だったはずの若手が、「悩みやすい人」へと変貌させられてしまったのである。

「経験」と「先入観」で分ける4つのタイプ

『「悩まない人」の考え方』を参考に、人材を4つのタイプに分けて考えてみよう。「経験のある/なし」と「先入観のある/なし」の2軸で考えてみるのだ。

(1)エース人材――経験はあるが、先入観がない

 このタイプは組織で最も価値ある人材だ。

 たとえば、20年の営業経験があるのに「お客様のニーズは常に変化している」と考え、新しい営業手法を積極的に取り入れる人がこれに当たる。

 過去の成功体験に縛られず、「これが正解」という思い込みがないため、状況に応じて常に最適な方法を選べる。

(2)素直なルーキー――経験がないので、先入観がない

 これは新卒や若手に多いタイプ。知識や経験は浅いが、だからこそ白紙の状態でなんでも吸収できる。何事にも「そんなの無理」と決めつけず、「やってみよう」という姿勢で臨む。

 ある広告代理店では、新入社員が「なぜこの手順でやるんですか?」と素朴な疑問を投げかけたことで、10年間続いていた非効率な業務プロセスが改善されたという事例もある。

(3)凝り固まったベテラン――経験があるせいで、先入観がある

 このタイプの口ぐせは「過去の経験から言わせてもらえば」。過去にうまくいった方法を絶対視し、新しいやり方を受け入れない。

 ある製造業では、デジタル化の波に乗り遅れた結果、競合他社に大きく水をあけられた。理由は「これまでのやり方で十分」と主張する中堅社員の抵抗が強かったからだ。

(4)偏見まみれの素人――経験がないくせに、先入観がある

 最も問題なのがこのタイプだ。実績や経験はないのに、どこかで聞いた情報や一部の経験だけで強い先入観を持っている。

 あるIT企業では、入社2年目の社員が「その技術は将来性がないですよ」と断言し、重要なプロジェクトに否定的な影響を与えた。

 結果、その技術は業界標準になり、競合他社に大きく出遅れる結果となった。

先入観が入らない体質をつくる3つの方法

 先入観は厄介だ。
 どうすれば先入観を克服し、リフレーミングすることができるのか?

『「悩まない人」の考え方』を参考にしながら、次の3つの方法を紹介したい。

(1)「他人の経験」をたくさん摂取する

 自分の経験だけでなく、多様な人たちの経験から学ぶことが重要だ。
 本を読み、セミナーに参加し、異業種の人と交流する。情報量が増えれば増えるほど、一つの答えに固執する危険性は減っていく。

 私(55歳)も、30代の経営者が主催する異業種交流会に積極参加している。

 スタートアップ企業として急成長している社長をつかまえては「どうやって成功したんですか?」「どんなふうに人を採用し、育てていますか?」と問いかけている。

 まさに、他人の成功経験、失敗経験を大量に摂取するためだ。

(2)「常識」を真に受けない

「業界ではこれが当たり前」「みんながこうやっている」という常識を疑う習慣をつけることも大事だ。

 常識と思われていることが、単なる思い込みである場合も多い。
 常に「本当にそうなのか?」と問いかける姿勢が大切だ。

 私は長らく、スマホのアプリでタスク管理をしてきた。とても便利で重宝してきたが、若いメンバーから「ノートでタスク管理したほうが効率的」と言われ、試しにノートでやってみたら、本当に効率的にタスク管理できるようになった。

 最初は「そんなことはないだろう」「最新テクノロジーを使ったほうが便利だ」と思い込んでいた。
 しかし、そのような先入観を取り払い、まずはやってみることが大事だと改めて思わされた。

(3)「二流の情報」を入れない

 質の高い情報源から学ぶことは、なにより心掛けることだ。

 根拠のない噂話やSNSの断片的な情報だけで判断するのは、今の時代、とても危険。信頼できる情報源からバランスよく情報を収集し、多角的な視点を持つことだ。これこそが先入観を防ぐカギとなる。

 以前、当社でもあった。「15年以上続けていて、3万人以上読者がいる横山さんから、メルマガのことを教えてもらおう」と、あるメンバーが勉強会を企画した。

 しかし私はメルマガの専門家ではない。よって「メルマガのことを勉強したいなら、本物のプロフェッショナルを講師に招こう」と進言した。

経験を活かしながら先入観を捨てる

 今回の事例で社長が最も憤ったのは、若手の可能性を潰してしまったことだろう。
 本来、若手は柔軟性があり、新しいことにも意欲的なはずだ。

 それを「そんなやり方でうまくいったなんて聞いたことがない」という根拠のない否定で変質させてしまった。

 その40代ベテランは部長職から一般社員へと降格させられた。

 この処分により、役職手当はもちろん、ボーナスの評価も下がり、結果的に年収は200万円以上もダウンする事態となった。

 40代ベテランには豊富な経験がある。しかしその経験を活かすには、先入観を捨て、新しい情報を取り入れ続ける姿勢が必要だ。

 そうしないと現状維持バイアスにかかったままで、「変えたくないものは変えたくない」「現状のままがいい」という心理に支配されてしまう。今回の『「悩まない人」の考え方』はそんな危険性を改めて教えてくれた。

(本書は『「悩まない人」の考え方』に関する書き下ろし特別投稿です)

【執筆者プロフィール】
横山信弘(よこやま・のぶひろ)
企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント
最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成する部下の育て方』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。