自己肯定したがる欧米人、周囲に溶け込みたがる日本人
心理学者のクロッカーとパークは、自尊感情の追求はけっして普遍的な人間の欲求ではなく文化的現象だと指摘する。その証拠として、日本人は他者との関係や結びつきに重きを置き、目立つことよりも溶け込むことを重視するという心理学者ハイネたちの知見をあげている。
そして、日本人は、アメリカ人のようには自尊感情を維持し、守り、高揚させようとするようには見えないし、自尊感情の追求に多くのコストを払うことはないという。
さらには、アメリカ人が自尊感情の追求によって不安を軽減することに大きなコストを支払うように、日本人は周囲に溶け込むことによって不安を軽減することに大きなコストを支払うのではないかと論じている。
これは、まさに僕たち日本人が日頃から実感していることではないだろうか。僕たちは、自信たっぷりに振る舞って自分を押し出すよりも、相手にプレッシャーを与えたり相手を傷つけたりしないように心がけ、周囲から浮かないようにすることに心を砕く。ゆえに、自己肯定にこだわる必要はないし、あまり自己肯定するとかえって周囲に溶け込みにくくなる。
アメリカ人をはじめ欧米の人たちの言動をみていると、その自信にあふれる様子に圧倒されることもあるかもしれないが、根拠なく自信満々な様子や他人の気持ちに無頓着に自己主張する姿に呆れることもあるはずだ。そこまで他人を見下し、自己肯定するのは、何とも見苦しいと感じることもあるのではないか。でも、そうしないと生きていけない社会なのである。
クロッカーたちは、何かがうまくいかなかったりして自尊感情が脅威にさらされると、自尊感情の高い人は他人の価値をおとしめてでも自分の価値を回復しようとすることを実証している。他人を引きずりおろしてでも、自分の価値を高めて、自尊感情を何としてでも高く維持しないとやっていけないのだ。
それに対して、日本では、自信たっぷりに見せたり、自己肯定して自分を際立たせたりしなくても、十分に生きていける。大事なのは、周囲に溶け込み、みんなとうまくやっていくことなのである。
そのため、自己肯定するよりも、周囲の人たちと協調し、良好な人間関係を築くことにエネルギーを注ぐことになる。自己を肯定するよりも、思いやりをもち、人と協調していくことが重んじられる。
こうしてみると、自己肯定感を高める要因が、欧米社会と日本社会では大いに違っているとみなすべきではないだろうか。