多世代家族同居が減り、農村で進む「空洞化」
中国の戸籍制度では「都市戸籍」と「農村戸籍」が分かれている。都市部に暮らす高齢者には年金制度があり、医療保険への加入が義務付けられている。一方、農村部は土地で収入を得る仕組みとなっており、農作業ができなくなったら、子供家族に養ってもらわなければならない。地域差はあるものの、現在、内陸農村部の高齢者の基礎年金は毎月約130~300元(約2600~6000円)と、都市部平均の10分の1以下という厳しい状況だ。
中国社会科学院が発表した「2024年中国農村高齢者ケア状況調査報告」によると、農村部の高齢者の約8割が基本的な介護サービスを受けることができず、約6割が何らかの慢性疾患を抱えている。65歳以上の高齢者1000人あたりの介護用ベッド数はわずか18.3床で、都市部の3分の1にも満たない。医療保険などの社会保険も不十分で、「医療と介護サービス」は農村部の高齢者にとっては「高嶺の花」となっている。
中国の伝統では「3世同堂」や「4世同堂」といった多世代家族の同居が一般的で、「子に老後を見てもらう」のが当たり前だった。しかし、急速な経済発展で地域格差が拡大し、農村の若年・中年層の都市への流出が止まらない。若い世代が農村を離れて都市に定住するという変化は、家族および社会機能の断絶を意味する。その結果、農村には高齢者と子どもだけが残る「空洞化」現象が生じている。
セーフティーネットが不十分な中、農村部の高齢者の「運命」は子ども世帯に委ねられている。子どもが親の面倒を見なければ、一種のネグレクト状態となってしまい、「自生自滅」(自然に発生し自然に消滅する、淘汰や消滅の過程を自然に任せるという意味)の危機に直面する。
中国国家衛生健康委員会の調査によれば、2024年の農村部の高齢者の自殺率は10万人あたり35.7人で、都市部高齢者の18人や全国平均の22人を大きく上回っている。特に、同居する家族がいない一人暮らしの高齢者の自殺率は52人と、衝撃的な数字となっている。この数字の背後には、農村の高齢者が直面する身体的疾患、経済的貧困、精神的孤独、社会的疎外など複合的な困難があり、その生活の厳しさは想像に難くない。