施設に預けるのは「親を見捨てた」のか「親孝行」か
中国の高齢者は施設に預けられることを「家族に見捨てられた」と感じる傾向があり、特に農村部ではその考え方が根強い。しかし一方では皮肉なことに、施設に入居している高齢者は「経済力がある人」「自宅で自殺するか孤独死するよりはマシ」「親孝行されている」と周囲から羨ましがられることもある。
現在、中国の農村部では高齢者人口に対して介護施設が圧倒的に不足している。適切な立地や料金の施設を見つけることは容易ではない。多くの施設は、町や村に点在する旧校舎や古い工場を簡易的に改装したもので、消防設備は不十分、かつ介護人員も不足している。
火災があった老人ホーム、月額料金は1万6000円+食費
4月に火災が発生した施設は2016年に設立された民営施設で、定員300人に対し実際の入居者は260名と報じられている。月額料金は800元(約1万6000円)に加え、毎月100元(約2000円)の食事代がかかる。
この火災で母親を亡くした女性は、メディアの取材に次のように語った。
「この施設に入る前に、いくつかの老人ホームを見学しましたが、ここは比較的安いし、50代の女性経営者も気さくでお年寄り思いでした。彼女は普段入居者の生活の様子をよくSNSに投稿し、季節の旬の料理を提供していたので安心していました。(略)私たち家族にとって、やむを得ない選択として施設を選び、出稼ぎに行っている自分たちの代わりに親の面倒を見てくれる安全な場所だと信じていました。まさか私たちの『親孝行』が母の命を奪うことになるだなんて、悔やんでも悔やみきれません」と涙を流した。
今回の火災の原因はまだ公表されていないが、10年前の河南省で36人が犠牲となった事故は、電気配線の接触不良による発熱が原因で、施設の建築材料が介護施設の標準仕様を満たしていなかったことで火が燃え広がり、屋根が崩壊し大量の煙が発生したという調査結果だった。