中国では死者が出るような事故が発生すると、農村部に限らず都市部でも政府の消防部門による厳しい検査が一斉に行われる。今回も20人の死者が出たことを受け、中央政府から地方政府まで、管轄下のすべての介護施設に「消防機器や非常口などを細心にチェックし、厳重注意せよ」との通達が出された。筆者の仕事関係先の介護事業者らは「最近は消防検査に追われている」と口を揃える。
経済不況で退所ラッシュ、ますます状況は深刻化
この事故について、中国国内の介護分野の専門家は「一見、老人ホームで起きた悲惨な火災事故だが、その背後にはもっと深刻な問題が潜んでいる。農村部の高齢者の過酷な生存問題が表面化したのだ。地域の格差や不均衡がある限り、火災などの事故をどれほど防いでもゼロにすることは永遠に不可能だ」と指摘している。
中国には日本のような介護保険制度がなく、介護事業は「儲からない」「リスクが高い」というのが周知の事実だ。特に貧困から脱却できていない一部の内陸部では、介護従事者は「高齢者に思いやりのある人」「愛情深い人」と評価される一方で、ひとたび事故を起こせば経営者は責任を追及され、一生立ち直れなくなる。わずかな入居料でやりくりし、コストを最小限に抑えることに精一杯で、リスク対応が疎かになり事故が発生しやすい……このような負のスパイラルに陥りがちだ。
状況はますます厳しさを増している。中国メディア「経済観察報」によると、昨年から農村部の老人ホームで異例の「退所ラッシュ」が発生し、退所率が25%に達したという。その理由は、出稼ぎに行っていた家族が経済不況により失業して故郷に戻ってきたためだ。収入がなくなった代わりに時間ができたため、お金を払って老人ホームに預けるより、自宅で介護する方が良いと判断したのである。
高齢者は自宅に戻れるが、これは果たして良いことなのか、それともさらなる苦境なのかは分からない。いずれにせよ、農村部の高齢者問題は中国の地域格差を最も象徴的に表しており、中国政府にとって喫緊の課題であることは間違いない。