関税の支払者や負担者は誰か?
負担は主として米国の消費者

 トランプ氏は、アメリカが諸外国からの輸入に対してかける関税は、アメリカにとって望ましいことであるかのように前々から言っていた。

 2025年1月20日の大統領就任演説では、次のように述べた。「われわれはもはや自国民に課税して他国を豊かにするのではなく、他国に課税して自国民を豊かにする」

 つまり、関税を通じて外国から収入を得、それを国内の減税に充てるというのだ。

「所得税ならアメリカ国民が負担するが、関税は外国の企業が負担する。だから、関税を増税して所得税を減税すれば、これまでアメリカ国民が負担していた部分が外国の企業の負担になるので望ましい」という考えだ。

 しかし、この考えは正しいとは言えない。

 アメリカ連邦政府の立場から見れば、関税の賦課によって税収が増える。そこで、これを財源として所得税を減税することができる。

 ところで、関税を負担するのは、普通は外国企業ではない。アメリカの国民が、関税分だけ価格が高くなった輸入車を買うことによって負担するのだ。

 後述するように、関税を誰が負担するかというのは複雑な問題だ。例えば、企業が関税分をそのまま価格に転嫁するのではなく、一部を収益減やコスト削減などで対応することもあるだろう。

 だが主として、関税を負担するのはアメリカ国民なので、トランプ税制改革が実現すれば、仮に所得税が減税されても負担は増える。

低所得階層ほど負担が増える
減税あっても恩恵は高所得者

 とりわけ所得が比較的低い階層にとって負担が増える逆進的な税制改革になる。一方で所得の高い層は減税の恩恵が大きい。結局、所得税を多く納めていた人が負担を軽減され、その分は輸入車を買った人が負うということになる。

 このような負担の変化は、到底望ましいものとは考えられない。トランプ氏の支持基盤といわれるプアホワイトの立場からすれば、特にそうだ。

「関税を負担するのは、普通はアメリカの消費者であって、輸出国のメーカーではない」という点は、最も重要な点なので、これについてやや詳しく説明しよう。

 話を分かりやすくするために、アメリカに輸出される日本車に、アメリカが関税をかける場合を考えよう。

 日本車の価格は、日本円で300万円とする。為替レートは1ドル=150円であるとしよう。したがって、ドルで評価すれば2万ドルだ。

 これに25%の関税がかかるとしよう。関税を支払うのは制度上、輸入者(通常はアメリカの企業や商社)である。輸出者(日本の自動車メーカー)ではない。

 通常は、輸入者は関税分だけ販売価格を引き上げる。つまり、これまでは2万ドルで販売していた車を2.5万ドルで販売する(このように、関税額だけ販売価格を引き上げることを「消費者に転嫁する」という。あるいは「関税の負担が前転される」という)。

 アメリカの消費者は5000ドル高くなった車を買うことになるので、負担が5000ドルだけ増える。

 関税の賦課によってアメリカ連邦政府の収入は増えるが、それはアメリカの消費者が負担したものなのだ。