そんなとき、相手のことを「この人ってどんな人かな」と思うと同時に、自分のことを相手から「よく思われたい」という気持ちが働いているはずです。こういったときでも、冷静に、いつもどおりに、自分のペースを守ってふるまうことができる人ももちろんいるでしょう。

コミュニケーションの穴を突く
性的グルーミングの手口

 でも、多くの人は、多少なりとも、いつもの自分とはちがった自分を演出してしまいます。心理学では、人は、他者に対して自分の印象をコントロールしようと「自己呈示(じこていじ/セルフ・プレゼンテーション)」を試みることが知られています。いつもの自分よりも少しだけにこやかに、少しだけ明るめに、少しだけ相手に合わせて…。

 それは決して悪いことではありません。なぜなら、人と人とのコミュニケーションは、相手の調子に合わせようとするからこそ、成り立つのです。仏頂面をしていたら、話しかけにくい人だな、と思われてしまいそうです。

 でも、ここに慎重になるべき要素の1つが隠れているのです。普段のやりとりだったら問題ないでしょう。でも、相手の目的が性的グルーミングの場合、相手のペースに合わせることで巻きこまれやすくなるという、ステップの1つが隠されていると考えることができます。

 シーン(1)を少しくわしく見ていきます。最初のやりとりはあいさつですからいいでしょう。その後の2回目の返信で、「横浜来たことある?」と聞いてきた相手に合わせて、女の子は「何度かある」と答えています。

 ここで相手の質問に「それは言えない」などと言うのは、雰囲気にそぐわないからですよね。そんなこと言ったら、すぐにきらわれてしまいそうです。それに、これくらいのことは別にかまわないじゃないか、と思うかもしれません。

 でも、そこにちょっとした落とし穴があります。相手のペースに巻きこまれて、女の子は大事な個人情報を伝えてしまっているのです。この流れでは、シーン(1)の最後のようにたずねられたら、この女の子はきっと自分の出身地だって言ってしまうでしょう。