有名な大学を出たとか、技術や記録を持っているとか、こんなすごいところから引き抜きの話がきている、というようなことです。すごい人の言うことであればまちがいない、と思わせるのです。こうして、言葉に真実味を持たせます。

 よく、大切なのは何を言ったかではなくだれが言ったかだ、と聞きますが、上述のような「権威性」を表しているとも考えられます。多くの人は、言葉の内容よりも、すごいと思っている人の言った言葉に心を動かされる、ということを示していると言えるでしょう。

 権威への服従については、心理学者のミルグラムによって行われた有名な電気ショック実験があります。この実験自体、倫理的な問題を提起するものでもありましたが、人は、権威がある人に服従してしまうことを明らかにした実験として知られています。

 実験が行われる前年には、ナチスドイツの戦犯であるアイヒマンの裁判が行われていました。命令に従っただけだ、というアイヒマンの主張は、翌年のミルグラムの実験によって一般の人にも起こり得ると示されたということで、通称「アイヒマン実験」とも呼ばれています。

アイヒマン実験によって
明らかになった「権威」の力

 ミルグラムは、人がどこまで良心に逆らってでも権威者の指示に従うのかを、実験で明らかにすることにしました。

 この実験で被験者は、「先生」役と「学習者」役に分かれました。被験者たちは、実験を行っている研究者から、「罰が学習に与える影響を調べるため」という説明を受けると、学習者役は椅子にしばりつけられて手首に電極をつながれ、先生役はその様子を見てから別室に移動します。

 それから先生役は、学習者役が問題の回答をまちがうたびに、より強い電気ショックを与えるよう指示されました。実は学習者役はサクラで電気は流れていなかったのですが、かれらはうめき声をあげたり、電気を止めてくれと抗議したり、しまいには絶叫したりという演技をします。

 それでも、先生役の多くの被験者は、研究者からの指示に逆らうことなく、最高レベルの強い電気ショックまで与えたといいます。つまり被験者は、権威ある研究者の命令に従ったということです。