インドネシアはトランプ関税と歳出削減で高成長路線に暗雲、政府への不信感がルピア相場の足かせにPhoto:PIXTA

米トランプ政権による相互関税の影響が世界経済に波及するなか、インドネシアは外需の減速とプラボウォ政権の歳出削減に直面している。公共投資の停滞や設備投資の減退、インフラ整備の遅れが景気の足を引っ張り、政権が掲げる高成長路線にも暗雲が漂う。財政運営のかじ取りの難しさが浮き彫りとなっている。(第一生命経済研究所 主席エコノミスト 西濵 徹)

トランプ関税の税率は
周辺国に比べて低い

 最近の世界経済や国際金融市場は、米トランプ政権による関税政策を巡る動きに翻弄されている。

 米トランプ政権は、すべての国に一律で10%の関税を課した上で、一部の国に対して非関税障壁などを理由に関税を上乗せする相互関税を課す方針を示した。4月には一律部分を発動し、上乗せ分も発動した。だが、直後に中国以外の国々への上乗せ部分の発動を90日間延期するなど政策は二転三転している。

 中国は対米関税引き上げなど対抗措置に動き、これを受けて米国は関税の上乗せ分を大きく拡大させたため、米国の対中関税率が145%、中国の対米関税率が125%となる貿易戦争に突入した。

 しかし、その後は米トランプ政権の対中政策に軟化の兆しが見えるとともに、中国も表面的に強硬姿勢を維持するも、一部の米国からの輸入品への関税を引き下げる動きを見せた。さらに、米中は第2次トランプ政権下で初の貿易協議を実施し、双方が報復関税を撤廃するとともに、上乗せ分の発動も90日間延期し、協議を行うなど一転して貿易戦争は収束に向かう動きを見せている。

 こうしたなか、米トランプ政権はインドネシアに対する相互関税を32%としている。これは他のASEAN(東南アジア諸国連合)諸国をはじめとするアジア新興国に比べて低水準にとどまる。

 さらに、同国は経済構造面で外需依存度が相対的に低い上、対米輸出への依存度も低いことを勘案すれば、直接的なマクロ面での影響は限定的と見込まれる。

 しかし、ここ数年の同国では対中輸出が頭打ちするなかで対米輸出の拡大が外需を下支えしてきたほか、中国経済の動向は商品市況を通じて資源関連の輸出額に影響を与えるなど、外需を巡る環境悪化が景気の足を引っ張るリスクはくすぶる。

 次ページでは、インドネシア経済の各部門の元凶を検証し、先行きを予測する。