違和感から始まる知的冒険、知的発見
鄭:外の世界に足を踏み出すと違和感や居心地の悪さがあるかもしれませんが、新しい関係やビジネスが生まれる可能性が広がります。グローバルな社会での活躍を目指すビジネスパーソンなら、違和感を恐れてはいけませんね。
名和:違和感があるところにこそ、新しい発見があります。同じコミュニティでいつものメンバーが集まると居心地はいいでしょうが、新しい発見はありません。自分が慣れていないコミュニティに飛び込んだり、意見が異なる人の考えを聞いたり、自分が知らないジャンルの本を読んだりすることが知的冒険、知的発見につながります。
作家の平野啓一郎さんが、「個人」から「分人」へと言っていますが、本当の自分は別に一つである必要はない。コミュニティに応じて分化した自分がいてもいいわけで、リアルとバーチャルの世界を行き来する現代においては、分人がますます当たり前になります。いろいろな人の輪の中に入って、自分の周りに新たな和を形成する。分人の総和としての「和人」の多様性が高いほど発想が豊かになるし、時間的にも空間的にも人生が豊かになると思います。
目の前の課題に対してすぐに答えが見つからない時も、違和感があったり、不安を感じたりしますよね。だから、効率よく答えを出そうとしがちです。AとBを結び付けて、すぐにCという答えを出す。でも、それだと当たり前の答えしか出てきません。
違う可能性を探って仮説をいったん崩したり、人の意見や異なる考えを聞きながら試行錯誤したり、そういった答えが出るまでの違和感のあるプロセスを楽しむ余裕が必要です。これは微生物の働きで有機物が分解されて新しいものが生まれる発酵と同じで、お互いが刺激し合いながら新しい答えが出てくる。〈ゆらぎ・つなぎ・ずらし〉によるイノベーションの創発も同じことです。
環境変化をいち早く察知して、ある種のセンサーとしての動くのが「ゆらぎ」、組織で言えば現場です。個体のゆらぎが数珠つなぎに大きな組織運動へと変化するのが「つなぎ」で、生態系や組織全体が新しい環境や生存の場へと転移するのが「ずらし」です。『学習優位の経営』(ダイヤモンド社、2010年)の中で詳しく述べていますが、この〈ゆらぎ・つなぎ・ずらし〉は、東京大学名誉教授の清水博さんのバイオ・ホロニクス論をベースに私が考え出した進化モデルです。