ラーニング→アンラーニング→トランスラーニング

名和学習優位を英語で言うとファミリアリティ・アドバンテージ(familiarity advantage)、何かに馴染む、習熟することが、さらに先へ進む唯一のカギだということです。ファミリアな部分だけを深掘りするのではなく、アンファミリアな部分にみずから乗り込んでいくことによって、やがてファミリアになっていく。それによって進化が起こるのです。

ラーニング(学習)とアンラーニング(脱学習)と言い換えてもいいのですが、学んだことをいったん捨てるアンラーニングの後には、トランスラーニングが必要です。学んだことを異なる次元に引き上げたり、違う分野に応用したりするのがトランスラーニングで、これがないと進化や成長につながりません。トランスラーニングはAIにはまだできない、学習優位の肝となる部分です。

お話を伺っていると、名和先生は充電と放電、インプットとアウトプットを同時進行で行っているように感じられます。

名和そう、そこが重要なポイントです。一般的には充電した後に放電するものだと考えがちですよね。生物学者の福岡伸一さん(青山学院大学教授)は動的平衡論の中で、生命は細胞レベルでみずからを壊しながらつくり直すことで平衡を保っていると述べています。先に壊す、捨てることで「間」ができ、そこを埋めるように新たなものが生まれるのです。

たとえば、まだ稚拙なレベルでもどんどんアウトプットしていくと、自分の至らなさや不確かさに気づくので、インプットのインセンティブが生まれます。私の場合、執筆や講演でアウトプットしていると、次のテーマが浮かんできます。

ですから、インプットとアウトプットは一方向ではなく、双方向に行ったり来たりすることが大事だと思います。

自分を泳がせてセレンディピティを起こす。超多忙でもできる「インプット&アウトプット」元電通公共関係顧問(北京)有限公司CEOの鄭燕氏(一番左)と名和高司氏(左から2番目)。2019年に名和氏が講演のために中国・広州を訪れた際の一コマ(写真は鄭氏提供)。

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京都先端科学大学 教授|一橋ビジネススクール 客員教授
名和高司 氏

東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカー・スカラー授与)。三菱商事を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてディレクターとして約20年間、コンサルティングに従事。2010年より一橋ビジネススクール客員教授、2021年より京都先端科学大学教授。ファーストリテイリング、味の素、デンソー、SOMPOホールディングスなどの社外取締役、および朝日新聞社の社外監査役を歴任。企業および経営者のシニアアドバイザーも務める。

 

◉構成・まとめ:田原 寛