最新の科学的知見を社会に
還元することが学者の使命
この新知見が、高校の世界史の教科書に反映された。マヤ文明の繁栄が、従来の「4世紀ころから9世紀に」(山川出版社『詳説世界史』2012年)ではなく、「前1000年頃から16世紀に」(山川出版社『詳説世界史』2013年)に修正された。いうまでもなく学校教科書の改善という研究成果の普及と歴史教育への貢献は、最も重要な社会還元の1つである。
学問の世界では、上には上がいる。私は、「マヤ文明研究50年」を1つの目標として、より優れた研究成果を生み出していきたい。「Publish or perish」(出版か死か)。学者の使命は、本や論文を出版し続けることだ。私は、2025年2月現在で、英語、スペイン語と日本語で300の出版物(27冊の本、論文やその他)を刊行している。研究成果が諸外国の研究者に引用されるのは、学術的に大きな意味があるし、現地の考古学者の研究に役立つのも嬉しい。
研究成果を社会に還元して「学術研究と社会一般の理解の距離を縮める」のも、研究者としての重要な使命である。私は研究成果を社会・国民に積極的に発信し、研究の裾野を広げるために奮闘努力している。本の執筆、新聞や雑誌への寄稿や取材、テレビやラジオへの出演や同じく取材、一般向けの講演会、教養講座やシンポジウム、他大学での講演や出前講義の依頼があれば、スケジュールが合う限りどんなに忙しくても全面的に協力する。
大変残念ながら、いわゆる「超古代文明」(先史時代に栄えたとされる、高度な文明を指す嘘)の本は数百万部のベストセラーになるが、私たち研究者がどんなに頑張って書いても、真面目な外国考古学の本はあまり売れない。マヤ文明と「宇宙人」を無理やり結びつけたり、「謎、不思議、神秘」を面白おかしく強調したりするようなオカルトや「都市伝説」の番組を制作する商業主義的で非良心的なテレビ番組には、どんなに出演料を積まれても絶対に出ない。研究成果を社会に還元するためには、良心的なマスメディアを選りすぐり、積極的に協力することが重要だ。