アメリカ大陸には多様で豊かな
文明が存在したことを知ってほしい
近年マヤ文明の研究は、飛躍的に進展してきたが、「神秘的な謎の文明」と誤解されることが多い。マヤ文明の名前を聞いたことがある人は多いはずだが、その実像はあまり知られていない。アメリカ大陸の多様性に富んだ諸文明は一括して語られ、「インカ・マヤ・アステカ」というように混同される場合が多い。この傾向を助長しているのが、西洋人が侵略する前のアメリカ大陸の記述が質量ともに極めて貧弱な中学歴史と高校世界史教科書だ。
教科書における先スペイン期アメリカ大陸の記述を改善することも、私の使命・ライフワークである。古代アメリカ学会では、私を座長として、4名の大学教員と1名の高等学校教員からなるワーキンググループを2008年に立ち上げ、高校世界史の教科書と用語集の誤った事実や不適切な記述を具体的かつ詳細に対面の研究会で検討した。そして、教科書改善案を練り上げて、教科書を作成している出版社に送付した。

青山和夫、大城道則、角道亮介 著
その結果、高校世界史の教科書で時代遅れの「世界四大文明」という用語が使われなくなるなど、古代アメリカに関する記述が改善された。また、ワーキンググループの活動を活字として残し後世に伝えるために、古代アメリカ学会や考古学研究会の学術雑誌に共著論文を発表した。
私は2023年から、古代アメリカ学会の会長を務める。私を座長とする計5名の大学教員で構成されたワーキンググループは、中学歴史と高校歴史総合・世界史探究という、2023年度に出版された全27冊の中学・高校歴史教科書における古代アメリカの記述を検討して、教科書を作成している出版社に教科書改善案を送付した。
さらに全国の教員が古代アメリカをきちんと教育する学習指導要領が策定されるように、文部科学大臣と文科省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室(学習指導要領を策定する部局)に教科書改善要望書を会長名で提出した。また2008年のワーキンググループ立ち上げ時と同様に、活動内容を共著論文として古代アメリカ学会の学術雑誌に発表した。今後も教科書が改善されるように、粘り強く働きかけていきたい。