セイバルは、パシオン川という大河から100メートルほど高い丘陵の上という、天然の要害に築かれ、国立考古学遺跡公園に指定されている。マヤ低地南部の多くの都市が9世紀に衰退する中、セイバルはパシオン川流域最大の都市として繁栄を極めた。保存状態が良好な50を超える石碑には、王の図像やマヤ文字の碑文が緻密(ちみつ)に彫刻されている(写真2)。

写真2 セイバル遺跡に建立された「石碑10」のマヤ文字の碑文写真2 セイバル遺跡に建立された「石碑10」のマヤ文字の碑文 同書より転載

 セイバル遺跡の熱帯雨林の密林では、ホエザルの怒鳴り声が響き渡る。さらに、カラフルで大きなくちばしが特徴のオオハシ(トゥカン)やハチドリをはじめ熱帯の美しい鳥が飛び交う。セイバル遺跡で見かける鳥の中で、ハチドリは最も小さい。体長は10センチメートルほどで、金属光沢に富む青、緑、紫、赤、橙色などの美しい色で輝いている。いつ見ても、「なんて可憐なんだろう」と見とれてしまう。飛び方が特徴的で羽ばたきが非常に早く、前に飛行するだけでなく、ヘリコプターのように空中の一点に止まるように飛ぶことも、飛びながら後退することも自由自在だ。

 セイバル遺跡が立地する丘陵のすぐ下にはパシオン川が流れている。そして、マヤ人が丘陵上に数々の貯水池を配備したセイバル遺跡は、「蚊の地獄」だ。早朝はそうでもないが、午前10時頃になると黒い浮遊物体、つまり夥しい数の蚊の大群が総攻撃してくる。マラリアの予防薬は、欠かさずに飲む必要がある。日本製の携帯用蚊取り器はあまり役に立たないので、発掘現場ではコフネヤシの実をブリキのバケツの中で燃やす。