
大阪・関西万博で注目を集める「空飛ぶクルマ」。未来感あふれるビジュアルに目を奪われがちなその裏で、日本を代表する総合商社が、静かに、しかし確かな一手を打ち始めています。なぜ彼らは商用運航が未確定のこの事業に積極投資を行うのでしょうか?「ビジネスモデルの4つの箱」から商社の進化の方向性を探ります。(グロービス ファカルティ・グループ・オフィス 戦略企画担当 八尾麻理)
万博で注目を集める「空飛ぶクルマ」
住友商事、丸紅…総合商社が参戦
大阪・関西万博の開幕から1カ月半が経過しました。著名建築家による各国のパビリオンもさることながら、未来感あふれる技術展示に心が躍った方も多いでしょう。中でも注目は、「空飛ぶクルマ」です。
日・英・米のスタートアップ5社の機体が万博会場で一堂に会したとあって、話題騒然となりました。商用運航にはまだ時間がかかるものの、今回はデモフライトや二地点間飛行も行われるため、にわかに期待が高まっています。
こうして「空飛ぶクルマ」の各陣営を眺めてみると、実は住友商事や丸紅といった総合商社が大きく関わっていることに改めて気づいた人も多いのではないでしょうか。
総合商社といえば、売り手と買い手をマッチングし、物流や金融の機能を付加して新たな商流を構築する「トレーディング」事業を想起しがちです。しかし、実際には「事業投資」がビジネスの中心になっています。
事業投資とは、将来性のある新規事業の立ち上げや既存事業への投資、有望な企業への出資を通して、経営や事業運営に深く関わることを指します。そうして長期的な事業成長や収益向上を目指すことで、単なる金融投資にとどまらないリターンを得ることになります。
「空飛ぶクルマ」は航空分野における次世代エアモビリティーを担う先駆けとして期待されていますが、実は航空分野自体が成長中の業界です。IATA(国際航空運送協会)が昨年12月に発表した『Global Outlook for Air Transport』によると、約20年後の2043年までに現在の2倍となる年間79億人が世界を行き来し、年平均3.8%の成長が見込まれるとされています。
そんな航空分野において、住友商事は、自らが事業主体となって機体を所有・貸出する航空機リース事業で世界第2位の規模を誇ります。2000年以降は機体リサイクルなどのアフターマーケット事業へ進出し、長期目線で価値を創造し、収益機会を拡大してきました。昨年末に退役航空機の調達と中古部品販売を手掛ける米子会社を完全子会社化したのも、その一環です。