商工中金が実践する「廃業型」支援、中小企業経営者の決断を促すポイントとは?写真はイメージです Photo:PIXTA
*本記事はきんざいOnlineからの転載です。

中小企業の廃業支援

 2022年3月に公表された「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(以下、中小企業GL)では、事業再生を目的とした「再生型」のほかに、「廃業型」の私的整理手続きも定められた。これは円滑かつ計画的な廃業を行うことで破産を回避し、資産換価の最大化や従業員への転職の機会を確保するためのものである。以下では、中小企業の廃業支援に向けた四つの論点を紹介する。

(1)優先すべき早期着手

 本連載第9回で触れたように、中小企業の抜本再生で大事なことは、破産でしか対応できなくなる前、まさに「早期」に具体的検討に着手することである。廃業型の場合も再生型と同様に一時停止要請が起点となるが、再生型と異なり将来キャッシュフローが見込めないことから、時間の経過は資金流出の増加(企業価値の毀損)に直結する。

 中小企業GLでは、廃業計画(弁済計画案)策定までの一時停止期間として再生型と同様に原則3~6ヵ月を想定している。だが、廃業型の場合、企業価値の毀損回避を最優先とし、その一層の短縮化が望まれる。

(2)金融債権者の債権放棄額と保全評価

 債権放棄は銀行経営に与える影響が大きく、その意思決定の過程や内容に「著しく不合理な点がないこと」が銀行の善管注意義務の観点からも当然に求められる。そのため計画の検証は「衡平性」「公正性」「透明性」の3原則から慎重に議論される。この際に焦点となるのは、放棄額(支援額)の妥当性である。

 廃業計画による回収可能額が清算価値から得られる回収額を上回ること(清算価値保障原則)は計画の前提となるが、非保全弁済原資を確保するために、過度に保全評価(担保価値)を低廉にする計画も一部には見受けられる。このような場合は、保全評価は計画策定上の仮置きとし、担保対象物を処分することによって実際に回収された金額を保全弁済額とする「処分連動方式」の採用が有効となる。