中小企業にとって課題となっていた取引慣行はJAM結成当初から政策課題として取り組んでいたが、賃上げの取り組みとセットで強化していく流れを打ち出したのだ。
発注側と受注側の取引が公正であれば、受注側の中小企業の従業員の賃上げの原資が生まれるはずだ、というロジックだ。
「袖をつける」発想が生んだ
中小企業の価格転嫁
当時、JAMの労働政策委員長だった安河内賢弘会長は「ない袖は振れないというのであれば、袖をつけようではないか」という発想だったという。
17年からは、製品の価値、労働の価値を認め合うという趣旨から「価値を認めあう社会へ」のスローガンを掲げるようになったが、行政を含む全国的な広がりを持つようになったのは、2021年、コロナ明けの物価高騰からだ。
政府は21年9月から、価格交渉がよくおこなわれる3月と9月を「価格交渉促進月間」とさだめ、JAMは2月と8月を準備月間として取り組みをすすめている。政府では、中小企業の取引実態を調べるため、中小企業に対してアンケート調査をするほか、取引調査員(下請けGメン)にヒアリングによる調査もしている。
ほかに内閣官房と公正取引委員会が23年11月、「労務費の適切な価格転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表。24年春には、下請け中小企業振興法に基づく「振興基準」を改定し、適切な取引価格のため、労務費の指針にそった行動を適切にとることなども明記した。
労務費の転嫁をふくめ、適正な取引を進めることを発注者の立場から約束するパートナーシップ構築宣言もつくった。登録企業は、2024年12月時点で5万7000社を超える。
また国が全国に設置した中小企業などの経営相談に乗るよろず支援拠点には、「価格転嫁サポート窓口」を設置し、価格交渉に関する基礎的な知識や原価計算の手法の習得をできるように支援している。
厚生労働省の2024年の賃金引き上げなどの実態に関する調査でも、価格転嫁をみる項目が初めて作られた。