リスキリングだけでは意味がない?
賃上げにつながる本当の鍵とは
また賃上げをめざす一環でリスキリング(学び直し)で、業界をまたぐかたちでの転職も推奨しているが、日本の場合、転職で収入があがるケースは海外に比べて少ないといわれ、厚生労働省の2023年の雇用動向調査によると、転職で賃金が増えたケースは37.2%あったが、減少したケースも32.4%だった。リスキリングは雇用対策にはなっても、賃上げ対策につながるかはわからない面がある。
法政大学の山田久教授(労働経済学)は「賃上げは企業に任せていても、十分に進まない。労組支援のような働き手の内発的な動きを強めることが重要だ」と指摘する。
日本でも法律上は労組に強い権限が与えられている。産業別組合がうまく機能すれば、業界の横の連携をいかしながら同業他社の交渉を圧力にしながら、交渉する環境を整えやすい仕組みになっている。
実際に、労働組合がある方が賃上げ率が高い。厚生労働省が24年10月末に発表した「賃金引上げ等の実態に関する調査」(有効回答企業数1783社)では、全業種でみた場合、組合がある企業の方が、賃上げ率が高い実態が浮かび上がった。
1人当たりの平均賃金の改定率は、労働組合がある場合は4.5%で、労組がない場合は3.6%だ。労組が「ある」と答えた場合、1人の平均賃金の改定額は1万3668円だったが、「なし」と答えた場合は1万170円だった。
だが、今ある政策は賃上げを目指そうとしてはいるものの、労働組合そのものを増やそう、もっと労組の賃金引き上げ機能を高めるようにしようという方向では進んでいない。
1980年代以降、世界的に公的部門の民営化がすすみ、その後には不安定な雇用が増え、格差が広がってきた。日本が経済を参考にすることが多い米国やドイツでは、こうした社会の均衡を保つために労組の社会的機能を再評価して強化するよう政策のかじを切った面もあった。
米国ではバイデン政権下で「分厚い中間層、もう一度」のかけ声のもと、米財務省が「労働組合と中間層」という報告書を出し、労働組合が機能しやすくするための法案の検討が進んでいる。ドイツでは労組がつくった労働協約が組合員以外に広く適用されるよう条件が緩和されたほか、組合費の税制優遇など強化する政策提案が出ている。