日本でもこのように、政府が企業に対して春闘の呼びかけをするだけではなく、労組の機能を強化する方向に政策のかじを切ることはできないのだろうか。
労政局がなくなり労組の力は
いっそう削がれていった
霞が関で労働組合を所管するのは、厚生労働省だ。ただかつて「組合行政」と呼ばれたものは、弱まっていると指摘されている。一つのきっかけは、厚生省と労働省が2001年に統合されたことだった。
厚労省の幹部によれば、労働省には筆頭の局として、労働組合法などを所管する労政局があった。だが、統合するときに、この局がなくなり、数度の組織改編を経てかつての業務はさまざまな局に再編されていった。かつて労政局にあった労働法規課は今は労働基準局にうつり、同じく労働組合課の業務は、労使関係担当参事官が引き継ぐ。
各局では、それぞれプロパーの職員を新規採用していた。労政局がなくなったことで、この労働組合や労使関係を専門的に扱うプロパー職員の採用もなくなり、かつてのように産業別組合としっかりと関係を築くことが難しくなったといわれる。
総合職の人事も旧労働省採用の職員が減り、いずれ共通採用者が組織の中心を担うことになることが見込まれるなかで、いかに労働組合行政を引き継げるか、難しい局面になってきているとされる。
もちろん、労働組合の声を受けて出てきている政策もある。
たとえば中小企業の賃上げに欠かせない労務費の価格転嫁だ。政府が2024年6月に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2024年改訂版」の最初の大きなトピックに挙げているのは「中小・小規模企業の賃上げの『定着』」で、最初に書いてあるのは、「労務費などの価格転嫁の推進」だ。
これは、中小企業を中心とした産業別労働組合JAMが2010年代半ばから始めた価格転嫁の運動が起点だ。
JAMによれば、消費増税があった2015年の春闘では、9000円のベアの目標をつくったものの、十分な結果が得られなかった。
このため、翌年の2016年からは、経済の好循環に向けて、2%賃金をあげようという発想のもと、6000円のベアとともに「公正取引の実現を世の中に訴える」という方針を打ち出すようになった。