そこで、自我が傷つかないようにつねに自分を抑制している人よりも、自由に新たなキャラクターを演じることのできる人のほうが、外国語学習に成功する、という仮説が立てられました。

 この仮説を検証するために、ミシガン大学のアレクサンダー・ギオラ(Alexander Guiora)らは、少量のお酒を飲ませることにより、自己抑制の度合いを下げるという実験をしました。

 すると、お酒を飲んだグループのほうが、まったく知らないタイ語をリピートする時の発音がよかったのです。これも、直感的に納得のいくものです。

お酒が入っているほうが
滑らかに外国語を話せる?

 筆者も大学生時代、英会話の練習をしていたころ、お酒が入ったほうが滑らかに話せた記憶があります。緊張が解けるからかもしれません。

 しかし、これらの結果は、実験前にアイスキャンディを食べていたグループのみに見られ、空腹でアルコールを飲んだグループにははっきりしたアルコールの効果は出なかったようです。

 また、2014年のドイツ語を母語とするオランダ語学習者を対象とした実験では、「動物実験の是非」についてオランダ語で話した録音を、オランダ語母語話者に評価してもらったところ、水を飲んだグループよりもウォッカを飲んだグループの方がオランダ語の発音がよりネイティブに近いと評価されました。

 さらに、2021年のオランダでの実験では、音楽フェスティバルでお酒の入った参加者に英語(外国語)の文、もしくはオランダ語(母語)の文を読み上げてもらい、その録音をそれぞれの母語話者に評価させ、体内のアルコール濃度との関係を調べました。

 その結果、英語(外国語)の場合は、発音の良さにアルコールの影響はないという結果が出ましたが、オランダ語(母語)の発音は、体内のアルコール量が多いと聞き取りにくくなるという結果でした。

 ある意味、母語ではろれつが回らなくなるのに、外国語ではそうならないとも言えます。

 まだ研究が少ないのではっきりしたことはわかりませんが、夜間の英会話スクールなどでは、ビールやワインでも少し飲みながら授業をするのもよいかもしれません。

 ただし、ミシガン大学での実験のタイ語の発音は、アルコールの量が多すぎると悪くなるという結果も出ています。外国語でも飲み過ぎるとろれつが回らなくなるので、適量が大事なわけです。

 いずれにせよ、アルコールの効用については、さらなる検証が必要でしょう。