
牛丼の吉野家がラーメンで世界一を目指す――。餅は餅屋という言葉があるが、果たして吉野家の挑戦に勝機はあるのか。元ボスコンの戦略コンサルで経済評論家の鈴木貴博さんが、現在のラーメン市場を分析し、「ラーメン世界一の実現性」と「吉野家がとるべき戦略」を語ります。(百年コンサルティングチーフエコノミスト 鈴木貴博)
血みどろのレッドオーシャン市場!
吉野家「ラーメン世界一」は無謀か
5月19日、牛丼チェーンを展開する吉野家ホールディングス(HD)が中期経営計画を発表。その中で示された「ラーメンを第三の柱に育て、10年後に提供食数で世界ナンバーワン」になるための戦略方針が話題を呼んでいます。
吉野家HDは、折からのコメ不足、コメ価格高騰のあおりで、主力事業の牛丼も値上げに踏み切らざるをえない苦しい経営環境に追い込まれています。主力業態はこれまで牛丼の「吉野家」と「はなまるうどん」の2本柱でした。そこで今回、ラーメンを第三の柱に育てたいというのが吉野家の野望です。
この野望、経営戦略の観点で見るとなかなか興味深いのです。なぜなら難易度は高いけれどもやり方はあるからです。
ラーメン世界一をめぐる競争環境はどうなっているのか?そして吉野家が世界のトップにたどり着く方法は何なのか?独自に解説してみたいと思います。
まずはラーメンの事業特性について解説します。吉野家がなぜラーメンを第三の柱に育てたいと考えたのか、最大の理由はラーメンは牛丼よりも客単価が高くとれるということです。
一方で競争環境としては血みどろの戦いが繰り広げられるレッドオーシャン市場。個人経営の個性的なラーメン店が林立し、ラーメン通の顧客を奪い合っているというのがラーメン市場の本質です。
消費特性としても牛丼と違い、ラーメン通は異なる味のラーメン店をはしごする傾向があります。だから、ラーメンの繁盛店が吉野家やマクドナルドのように大規模チェーン化するのがそもそも難しいのです。