桜蔭や開成に受かった子を「親がお尻を叩いたおかげで合格しただけ」とディスる親の盛大なカン違い

富永:「競争させたくない」と言いながらも、実際には高い目標を持っている保護者も多いですね。

渋田:「偏差値だけで学校を選ぶな」とよく言われますが、それは実績がない塾が言っているだけかもしれません。確かに学校選びは単純に偏差値だけでするものではありませんが、実際に各校の個性も見ずに、難関校の受験はよくない、などと抽象論で批判している人も多く見受けられます。

 私は「正しい方向性で全力で頑張る」という姿勢が大切だと考えています。

 世界各国にはイニシエーション(通過儀礼)のようなものがありますが、日本では12歳の中学受験がその機会になり得る。子どもが一皮剥けるチャンスですから、全力で前向きに取り組まなければもったいない。子どもが目標に向かって頑張ることに水を差すようなことは良くないと思います。

 例えば生徒が開成に多数合格したうえで、「生徒の個性によっては開成以外の学校に進学するようにアドバイスしている」と言えれば格好いいですよ(笑)。あとは子どもが「A」という学校を目指していたけれど、実はより難しい「B」に向いていると見抜いて入れてあげることもプロの冥利に尽きます。

富永:生徒の才能を探すという視点を持っていないとそれはできませんね。最近の教育現場では「多様性」がキーワードになっていますが、時に「多様性」の名のもとに、努力を否定するような空気も感じることがあります。

「コスパよく、タイパよく」という価値観が大勢
頑張ったことを素直に称賛しない風潮に物申す

渋田:ぎりぎりでも、一生懸命勉強して、開成や桜蔭に受かるのはすばらしいことじゃないですか。

富永:私もまったく同感です。偏差値を高く維持することは本当に大変なことであり、それを達成している学校や塾は一定の成果を上げているという意味では尊重されるべきです。

 受験直前になるとどうしても弱腰になるのか、「無理して上の学校に行かなくてもいい」「子どもが無理をせずに入れればいい」という風潮が強まりますが、上を目指すことを否定するのが本当に子どものためになるのかと思いますね。

 実際、桜蔭や開成に受かった子に対して「おめでとう」と言うより先に、「親がお尻を叩いて、勉強させたから受かっただけでしょう」といったような「アンチ中学受験」とも言うべき否定的な反応もある。厳しい環境に挑戦することの価値をもっと認めるべきではないでしょうか。

 開成に合格したとして、人生はそれで終わりではありません。そこでいろいろな友達に会うとか、先生に出会うとか、刺激を受けて自分の人生が変わる。