未来に起きる二つの地震
千葉県から北上して東北地方、北海道も確認してみます。いま、そのエリアは想定外になっていますが、想定外をできるだけ想定内にしたいのです。実はこのエリアでも想定されている地震があって、それは日本海溝地震と千島海溝地震です。
まず2011年の東日本大震災は東北沖で起きました。それで次に起きると想定されている日本海溝地震の震源域はその北側にある日本海溝、千島海溝地震はさらにその北にある千島海溝の一部です。
規模は東日本大震災よりちょっと大きい。日本海溝地震はマグニチュード9.1、それから千島海溝地震がマグニチュード9.3です。
津波は岩手県宮古市で高さ29.7メートル。南海トラフ巨大地震は高知県で34メートルとされているから、ほぼ同じ規模の高さ30メートルに近い津波がくるわけですね。
経済的な被害はそれぞれ31兆円、17兆円と予想されています。ちなみに東日本大震災の直接的な被害は16.9兆円です。僕たちは間接的な被害を考慮して約20兆円としているけれど。日本海溝地震はその5割増し、それから千島海溝地震はほぼ一緒です。
これだけ大きな規模の地震、それに津波がくるということは、きっとみなさんは知らなかったと思います。研究者以外はあまり知らない情報ですが、これらの地震に関しても被害のシミュレーションをして、概要の把握はだいたい終わりました。
貞観地震の衝撃
あとはどういうふうに災害対策をするかで、いまはそのステージにあります。多分、立法化して、南海トラフ巨大地震と同じような災害対策をすることになると思います。
ただ相対的な人口が少ないから、そういう意味で予算としては少ないでしょうね。でも、やはり起きる災害で、地面の揺れや津波は半端ないので、十分な警戒が必要です。
日本海溝地震、千島海溝地震に相当する前回の巨大地震は慶長三陸地震で、発生したのは1611年で東日本大震災のちょうど400年前です。もう400年以上経過しているから、やはり警戒してくださいということです。
ちなみに東日本大震災は1000年ぶりと言っているけれど、最近の研究では、2011年の大震災の前にも大きな地震があった可能性が示唆されています。だから1000年ぶりじゃなくて500年ぶりかもしれない。これからも歴史的に大きな地震があったという事実が見つかる可能性もあります。
でも、このエリアで有史上の最大の地震は、やはり1000年前の貞観地震であることは変わらないでしょうね。
貞観地震は平安時代前期の869年に日本海溝付近の海底を震源域として発生しました。大規模な津波を伴った巨大地震で、規模はマグニチュード9クラスと考えられています。なお延喜元年(901年)に成立した史書『日本三代実録』には地震災害に関する詳しい記述があります。
雪や噴火のリスクも考える
それから、このエリアでの地震はどのような被害があるかというと、基本的には南海トラフ巨大地震などの大きな地震と同じですが、さらに気候を考慮する必要があります。寒冷地だから、雪に対するリスクが増えるんです。
たとえば冬は雪が積もることで、共振動による家屋の全壊率が高くなる。わかりやすく言うと雪の重みのぶん建物が壊れやすいというわけです。
ちなみにこれは火山の噴火も同じで、火山灰の上に雨が降ると、漆喰のように屋根や壁にベタッとくっつきます。そうすると屋根にそれだけの重みが加わるので、木造家屋が倒壊するケースが増えるわけ。これは実際にフィリピンのピナトゥボ火山の1991年の噴火で起きました。
ということで、南海トラフ巨大地震については直接的な被害がない東北地方や北海道に住んでいる人も地震に対する準備が必要ということです。
参考資料:【京大名誉教授が教える】首都直下地震で「最も被害が大きいと予想されるエリア」とは?
(本原稿は、鎌田浩毅著『大人のための地学の教室』を抜粋、編集したものです)
京都大学名誉教授、京都大学経営管理大学院客員教授、龍谷大学客員教授
1955年東京生まれ。東京大学理学部地学科卒業。通産省(現・経済産業省)を経て、1997年より京都大学人間・環境学研究科教授。理学博士(東京大学)。専門は火山学、地球科学、科学コミュニケーション。京大の講義「地球科学入門」は毎年数百人を集める人気の「京大人気No.1教授」、科学をわかりやすく伝える「科学の伝道師」。「情熱大陸」「世界一受けたい授業」などテレビ出演も多数。ユーチューブ「京都大学最終講義」は110万回以上再生。日本地質学会論文賞受賞。