がん患者が激怒した医師の「ひと言」ご都合主義がバレバレでウンザリする…写真はイメージです Photo:PIXTA

がん告知や余命宣告が広まったのは患者のためという建前だが、それはお為ごかしにすぎないのではとベテラン臨床医は指摘する。あと少ししかない人生を必死で生きる患者は、その言葉に絶望するだけでなく、医師から見放されたように感じることもある。患者が本当に望んでいることは何なのだろう?※本稿は、里見清一『患者と目を合わせない医者たち』(新潮社)の一部を抜粋・編集したものです。

患者さんが激怒した
担当医の一言とは?

 山崎さん(仮名、以下患者情報は変更されています)という60代の男性が、がんセンターを退職した私の異動先に、紹介状を持って外来受診された。

 この方ががんセンターで肺癌の手術を受けた時、私は癌患者の遺伝子に関する研究をやっていて、そのために山崎さんの血液を分けて欲しいとお願いし、快く了解していただいた。

 雑談の中で、山崎さんは私の父親と同じ元船乗りであると知り、その話で盛り上がった。ただそれだけの縁である。

 残念ながら山崎さんの肺癌は脳転移で再発した。

 脳への放射線治療の後、新たに担当となった内科医は、治療の説明をしてからすぐ、「今からホスピスを探しておくように」と勧めた。

 肺癌が再発して治らないのは残念だが、症状もなく元気でこれから改めて病気に立ち向かおうとしていた山崎さんは、この一言に激怒して私のところへやって来た。

 紹介状には、腫瘍の性質と、それに合った分子標的薬剤での治療予定であったことが書かれていた。もちろんその方針に、間違いはない。その薬剤は、かなりの有効性が期待できるが、最終的には効かなくなり、予後は2~3年と推定された。