身を守るためには、「頑張らない」と割り切ってしまうのが最善の策である。「出世も望まないし、会社に期待することも何もないが、それでも自分はここに居座るのだ」というマインドセットを持つことができれば、給料をもらい続ける自らの立場のみならず、その中で心が折れないように自衛する手段も確保できるということだ。

 その上で、「クビにならないためのなにか」をいかにして自らのものにしていくかが、生き延びるためには問われることになる。

 一番いいのは、それこそ山岡士郎(編集部注/漫画『美味しんぼ』の主人公)や浜ちゃん(編集部注/漫画『釣りバカ日誌』の主人公、浜崎伝助)のように、勤務先における立ち位置と自分自身の趣味とを上手にリンクさせていくようなやり方だ。ただし、現実に可能だとは限らないだろう。

 ではどうすればいいのか──。私は、「いい人」であることに、もうひとつの方向性があるのではないかと考えている。

「スキルを極める」だけでは
組織の中で孤立する

 生き馬の目を抜く競争社会で「いい人」とは基本的に「無能な人」の婉曲表現だとされる。しかし、「いい人」戦略が生存において有効だとする考え方は、根拠がない話でもない。

 生き残っていくために必要なこととして、これまで言われてきたのは、「個性を際立たせるべし」とか「スキルを磨くべし」といった指南だった。しかしその通りにすると、ともすれば「一匹狼」となり、かえって居心地が悪くなったり、選手生命を短くしてしまったりするのがオチである。

 私が注目しているのは、楽天ゴールデンイーグルスの監督を務めていた平石洋介である。出身球団である楽天のコーチ・監督のほか、ソフトバンクホークス、西武ライオンズでもコーチを歴任しているが、選手としての実績にはこれといって目を見張るほどのものはなかった。

 母校であるPL学園高校では、左肩の不調が原因で目立った活躍はできなかったものの、小・中・高・大学すべての野球部で主将を務めるなど、人望の篤さに関しては定評があった。選手というよりコーチとして名を馳せたのも、人柄に負うところが大きかったはずである。