GAFAMなどは正社員の採用に際して、スキルよりはどちらかというと人柄を重視している。スペースX、テスラ、(Twitter改め)Xなどで知られるイーロン・マスクも、採用の基準は「good-natured person(人柄がいい人)であるかどうか」だと明言している(注1)。

 ひと口に「いい人」と言っても、単に人柄がいいことを指しているのか、社の文化を変革できる潜在力を持っていることを指しているのか、あるいはよきムードメイカーのような役割を果たせることを指しているのかは曖昧だ。

 しかし「男芸者」に徹することが、意外に重要なポイントとなっているように思える。

外資系の組織でも
「男芸者」は歓迎される

 男芸者とは、本来は「幇間」、いわゆる「太鼓持ち」のことだ。企業社会においては、「上役(あるいは顧客)のご機嫌を取る人」の意味に取っていい。組織も結局は人の集合体なので、必ずしも合理性や合目的性だけですべてが円滑に動いていくとは限らない。

 ゴマすりで出世した人が企業でそれなりにプレゼンスを示すこともありうる。「男芸者」であることは、出世や、少なくとも、企業内における延命の最も重要な素質になっているのかもしれない。

 意外に思われるかもしれないが、「男芸者」は、実は外資系企業でも重宝される。たとえば黒木亮の小説『獅子のごとく』(幻冬舎文庫)では、外国人を日曜の晩に接待する日本人は評価が高い、といった趣旨の逸話が描かれている。外資系企業の一員として日本に単身駐在している外国人が、日曜日の夜に寂しさを覚えるため、こうした外国人への接待が有効なのだという(注2)。

 小説であるが、事実である。作中に登場する人物のモデルの何人かを私も直接知っているが、彼ら自身が「この本は本当だ」と太鼓判を捺している。

注1 『イーロン・マスクの生声 本人自らの発言だからこそ見える真実』ジェシカ・イースト編、鷹取孝訳、文響社、2022年、p.99

注2 『獅子のごとく(上)小説 投資銀行日本人パートナー』黒木亮、幻冬舎文庫、2013年、p.167