「部下からの『SOS』を見落とさない上司は、どこを見ているのか?」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

部下からの「SOS」を見落とさない上司
「最近、部下の〇〇さんの様子が気になるけど、自分のことで手一杯でなかなか…」
「正直、部下とのコミュニケーションが少し億劫に感じる時もある…」
部下を持つ上司の皆さん、日々の業務やプレッシャーの中で、こんなふうに感じることはありませんか?
上司だって一人の人間です。疲れていたり、他の問題で頭がいっぱいだったりすれば、部下一人ひとりに常に完璧に気を配るのは難しいものです。
時には、部下と関わること自体がしんどいと感じてしまうことだってあるでしょう。
ですが、そうした上司側の「しんどさ」が、知らず知らずのうちに部下の小さな心のSOSサインを見えにくくさせ、気づいた時には問題が深刻化していた……。
そんなふうに「気になっているのに気づけない」うちに部下や後輩の心が病んでしまうことってあるんです。
「でも、へたに触るとやぶへびかもしれないし…」
今日は精神科医として、そんな葛藤を抱える上司や、上司との関係に悩む方のためにメンタル不調の悪化を防ぐために、何を意識し、どう関わっていけば良いのか、そんなポイントについて共有したいと思います。
なぜ見落としてしまうのか?
上司が気づきにくい「心の壁」
上司の方が部下の小さなSOS、初期のサインを見逃してしまう背景には、様々な要因があります。
● 多忙さとプレッシャー:自分の業務や成果へのプレッシャーで、部下の細かな変化にまで意識が向きにくくなります。
● 「きっと大丈夫だろう」という楽観視:問題が表面化するまでは、「大したことはないだろう」と思い込もうとする心理があります。
● コミュニケーションの負担感:部下と関わることを苦しいと感じてしまう、過度に心配しすぎてしまって無意識に働く気苦労を感じることでしょう。
● 過去の経験からの思い込み:以前、心配して声をかけたら煙たがられた、などの経験から、踏み込むことをためらってしまう。
これらの「心の壁」は、誰にでも起こりうることです。
しかし、その結果、部下の小さなSOSが放置され、孤独感を深め、不調を悪化させてしまうリスクがあります。
こんな初期のサインのあるうちにヘルプを出すことが問題を悪化させないポイントでもあるのです。
見落としの代償は大きい:小さなSOSをキャッチする重要性
部下のメンタル不調は、初期の段階で適切に対応できれば、回復も早く、深刻な事態を避けられる可能性が高まります。
ですが放置したり、つい見過ごしてしまうと、長期の休職や離職につながったり、チーム全体の生産性や雰囲気に悪影響を及ぼしたりと、個人のみならず組織にとっても大きな損失となりかねません。
だからこそ、「メンタル不調は小さなSOSを見落とさない」と意識することが大切なんです。
部下のSOSをキャッチする3つのポイント
とはいえ、いつも完璧な上司でいる必要はありません。
いつも気を張りすぎていると余計に負担になってしまいます。
そこで、部下のメンタル悪化を防ぐために、以下の「3つのポイント」に絞って意識してみてください。
視点1:「いつもと違う?」その“違和感”を大切にする部下の勤怠(遅刻・欠勤)、仕事ぶり(ミス・集中力低下)、コミュニケーション(口数が減る・イライラ)、外見(表情・身だしなみ)など、「あれ、いつもと違うな?」と感じる小さな変化にアンテナを張ることが第一歩です。全てを詳細に把握できなくても、その「気づき」自体が重要です。
視点2:完璧な傾聴は難しくても、「話せる場」の存在を示す。常に時間をかけてじっくり話を聞くことが難しくても、「何か困ったことがあったらいつでも声をかけてほしい」というスタンスを普段から伝えておくことが大切です。1on1ミーティングなどの機会は、業務報告だけでなく、部下の小さな変化や悩みをキャッチする貴重な場として意識しましょう。
視点3:一人で解決しようとせず、「つなぐ」意識を持つ。部下のメンタル不調の対応は、上司一人が全てを背負うものではありません。むしろ、抱え込まずに、産業医や人事担当者、社内外の相談窓口といった専門家や関係部署に適切に「つなぐ」ことが、上司の重要な役割です。「自分だけで何とかしなければ」と思いつめないでください。
その「意識」が、部下とあなた自身を守る
上司としての日々のプレッシャーや「しんどさ」は、決して他人事ではありません。
そんな中でも、部下への関心を完全に閉ざさず、「小さなSOSを見落とさない」という意識を持ち続けること。
それが、部下の心の健康を守り、深刻な事態を防ぎ、結果としてチームやあなた自身を守ることにも繋がるのです。
完璧な対応ができなくても大丈夫です。
部下を気にかけ、問題を解決させるのではなく「つなぐ」という「意識」こそが、最も大切な上司の条件の一つなのです。
(本稿は、『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』の著者・精神科医いっちー氏が書き下ろしたものです。)
精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。