「子どもの心が弱くなる『共依存親子』の特徴とは?」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

まさかの「不登校」
「いじめられているわけでも、勉強が嫌いなわけでもない。なのに、どうしてうちの子は学校に行けないんだろう…」
明確な理由が見当たらない不登校に直面し、途方に暮れている親御さんは近年とても増えています。
お子さん自身も、友達には会いたいのに、なぜか学校に行けないのを言葉にできず、自分を責めて苦しんでいるかもしれません。
このような「理由が見えない不登校」の背景には、時として「共依存」という、愛情ゆえに気づきにくい親子の関係性が隠れていることもあるのです。
精神科医として、今日はそんな「共依存親子」とはどんな親子を指すのか、親子の立場が逆転してしまうような重症化したケースも踏まえ、その関係性から抜け出し、お子さんが再び自分の足で歩き出すためのヒントについてもお伝えしたいと思います。
「共依存」とは?
「共依存」とは、「相手の世話を焼くことで自分を守る」とか、「世話を受け入れることで安心感を得る人」といった、相手を想っているようで、互いに依存し合っている状態を指します。
もっとも一般的にはアルコール依存症の関係性があげられます。
例えば、旦那さんがお酒を飲むと体に悪いことはわかっているけど、お酒を与えないとイライラされるのがイヤでついつい与えることが当たり前になってしまいような関係。
このように、世話をしたり愛情を与えたりしているつもりが、実は互いに依存し合い、離れられなくなっている歪な関係のことを「共依存」と評します。
このような関係性は近年では親子関係でも見られていて、「子どもがメンタルを崩してしまうのがこわいから」本人の意思を尊重しているようでついつい引きこもりを助長してしまったり、「私がいないとこの子はダメだから」と過剰に子どもの問題に口を挟んで解決してしまったり……。
このように、過剰に子どもの問題を心配しすぎるあまり、ついには親子の力関係が逆転してしまい、子どもの機嫌が家庭内のすべてを支配してしまうこともあるのです。
どちらも愛情という暖かい感情に隠れているぶん、当事者自身がその問題に気づきにくいのが大きな問題なのです。
「共依存親子」を振り返るチェックリスト
「共依存」となりやすい親子にはいくつか特徴があります。
【親の特徴】
・子どもが機嫌を損ねてしまうことが極端に怖い
・子どもの問題を、まるで自分のことのように感じてしまう
・子どもが失敗したり、悲しむことが許せない
・子どもの顔色をうかがっていると感じる
・子どもの将来がどうなるのか不安を抱えているけれど行動に移せない
【子の特徴】
・自分の要求が通らないと、過度にネガティブな発言が増えたり、かんしゃくを起こして親をコントロールしようとする。
・自分で話すことが苦手で、親に判断や発言を委ねがち。
・家庭以外の世界に対して「怖い場所」「大変な場所」という漠然としたイメージを持っている。
・将来への絶望感が強くて希望が持てない
・学校や仕事には行けないけれど外出はできる
このような特徴がいくつも当てはまる人では共依存となっていないか注意が必要です。
なぜ「理由のない不登校」につながるのか?
では、なぜ「共依存親子」が不登校の一因となりうるのでしょうか?
一般的な理由としては、親が先回りして問題を解決することが定着してしまうと、お子さんが自分で頑張って克服する、という努力のプロセスを奪ってしまうことになります。
このような「困難を克服する力」、「心の免疫力」とも呼ばれる心の力のことは「レジリエンス」とも表すことがあり、この力が育たないぶん、未知のものを過度に恐れる、脆弱性が高まってしまった繊細すぎる子として育ってしまいます。
そしてそれが悪化すると、親子の立場がまるで逆転したように、子どもが家庭内の「支配者」になってしまうようになります。
このようなケースでは大変に家庭関係が複雑になり、親も子も、両方の精神疾患の発症の要因にもなってしまうのです。
子どもの心が繊細になりすぎると、安全なはずの家の中にいても、精神的に不安定になってしまうことがあります。
なぜなら、子ども自身も、頭では「学校に行かなければ将来が不安だ」と分かっているにもかかわらず、心は「それでも学校に行くのは苦しい、行きたくない」と感じてしまっているのです。
この頭と心の矛盾(葛藤)に板挟みになり、逃げ場がないように感じてしまうのです。
その結果、自分の中で悩みや不安が雪だるま式に大きくなり、「もうどうにもできない」という絶望感から、ますます外に出るエネルギーを失ってしまいます。
これが、「理由のない不登校」につながる理由なのです。
親が今日からできること
「もしかしてウチも共依存親子かも…」
そう感じたとしても、自分を責める必要はありません。
子育てはなかなか上手くいかないものです。
だからこそ、気づいたことが、変化への最も重要な第一歩なのです。
1. 「境界線」を意識する
「これは子どもの課題、これは親の課題」と心の中でお子さんとの境界線を意識しましょう。時には境界線を超えるような、子どもの理不尽な要求に対して、親として毅然と「NO」と言う勇気も必要です。
2. 子どものネガティブな変化も受け入れる
子どもが不安や悲しみを感じていても、すぐに問題を解決させて苦痛を取り去ろうとするのではなく、「そう感じるんだね」と、まずはお子さんの感情をありのまま受け止めるようにしましょう。
3. 「小さな失敗」はお子さんを育てていると意識する
失敗は、子どもが成長するための貴重な栄養です。それを先回りして子の成長を奪うのではなく、子どもが自分で考え、乗り越えるのを見守ることも成長のためには必要です。
4. 親の時間も大切にする
親自身が趣味や友人を持ち、自分の人生を楽しむことは、お子さんが外に目を向けられるようになるために非常に重要なことです。親が生き生きとすることで、子どもへの過度な執着も手放され、健全な心の距離が生まれます。子どもが現実に絶望しないためにも親が人生を楽しむことも大切なことです。
5. 家族だけでなく、第三者も介入させる
子どもの問題は家庭の中だけで対処しようとすると視野が狭くなりがちです。スクールカウンセラーや地域の教育相談センター、われわれ精神科医への受診など、第三者の視点を入れることで、新たな視点が生まれて解決の糸口が見えることがあります。
子どもの力を信じること
「共依存親子」から抜け出すことは、はっきり言って親にとっても、子にとっても、痛みを伴うことになるかもしれません。
しかし、それはお子さんが一人の人間として自立し、自分の人生を歩んでいくため、いつかは乗り越えなければならない成長のプロセスでもあります。
子どもが自立して、自分で自分のことを守れるようになるためにも、共依存から抜け出すために必要なのは治療や保護ではなく、痛みをともなうかもしれない「ゆるやかな成長」なのかもしれません。
(本稿は、『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』の著者・精神科医いっちー氏が書き下ろしたものです。)
精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。