「日本酒には多種多様な成分が含まれていますが、特筆すべきはアミノ酸です。一口にアミノ酸と言ってもうま味、苦味、酸味を形成するものがあり、それらが複雑に絡み合い、あの特有の味を作り出しています。日本酒のアミノ酸の含有量は、白ワインの約10倍と言われています。糖もまたおいしいと感じる成分の1つ。日本酒の糖の種類はナチュラルな甘さのグルコースのほか、最も甘いフルクトース、ほどよい甘さのスクロースなどがあります」(肥田氏)
冷やして甘いと感じる日本酒は、フルクトースの含有量が高い傾向にあるという。フルクトースはフルーツに多く含まれる糖で、フルーツを冷やすと甘く感じるのはそのためなのだ。
「フルーティな日本酒が、常温よりも冷やしたほうがおいしいのも同様の理由です。ただ日本酒の場合は、苦味や渋味なども含まれている立体的な味なので、冷えたものを飲むときも、時間の経過とともに起こる温度の変化による味の変化を楽しんでほしいですね」(肥田氏)
日本酒好きなら納得の説明である。「ただし香りをより楽しみたい場合は、温度が低すぎないほうがいい」と肥田氏。香りは温度が高いほうが、香気成分が揮発しやすいからだ。確かにテイスティングやコンペティションの際、日本酒は全て常温で試飲する。これも香りをしっかり嗅ぐためだ。
冷やしたビールは
なぜおいしい?
お次は肥田氏も「最初の1杯」に選んでいるビールだ。ビールをキンキンに冷やすと、苦味や渋味を感じにくくなり、それらがキレや喉越しの良さに変換され、おいしいと感じられる。
「ビールの代表的な味覚は、苦味、渋味、ミネラル感などです。苦味や渋味は、もともとは雑味ととられがちなものですが、冷やすことでキレに変わり、さらには炭酸の爽快感が加わって、おいしいと感じられます。飲み慣れるほどに、ビールの苦味が欠かせなくなります。なお、ミネラル感とは、全体的な味の強度や味の際立ちのこと。ミネラル感が苦味や渋味の味わいを際立たせて強調すると推測されます」(肥田氏)
日常ではあまり使うことのない「ミネラル感」という言葉。硬水のミネラルウォーターの独特な重みや厚みのある味わいも、ミネラル感による効果の1つだ。