ウイスキーと焼酎に共通する
「おいしさの主役」とは?

 それでは、蒸留酒についても教えてもらおう。

「蒸留酒のおいしさに関しては、味覚というよりも香気成分が大きな鍵を握っていると考えられています。本格焼酎や泡盛(乙類)は芋、黒糖、タイ米など、原材料によって香気成分が変わってきます。芋焼酎を例にとると、バラやゼラニウムにも含まれるβ-フェニルエチルアルコールという香り成分や、熟成期間を長くとった泡盛はバニラを思わせるバニリンが甘味を感じさせます」(肥田氏)

 ごくたまに「焼酎は蒸留しちゃうから、何を飲んでも同じ」と言う人がいるが、とんでもない。同じ原材料でも造り方や貯蔵方法によって、味は全く違ってくる。ほかにも焼酎の代表的な香気成分には、「フーゼル油」がある。別名「焼酎の華」ともいわれ、香りやうま味のもとになるものだ。

 では、同じ蒸留酒でもウイスキーのように樽熟成をマストとした酒は、何が決め手になるのだろう?

書影『なぜ酔っ払うと酒がうまいのか』『なぜ酔っ払うと酒がうまいのか』(日経BP)
葉石かおり 著、浅部伸一 監修

「ウイスキーも焼酎同様、香りがおいしさの主役です。ウイスキーの場合、蒸留したものを何年もかけて樽熟成を行います。この過程で樽由来の香りがウイスキーに移り、時間の経過とともに香りが変化します。『ニューポット』といわれる蒸留仕立てのウイスキーは青々しい香りがしますが、貯蔵年数が長くなるとなくなり、脂肪酸などが変化してウイスキー特有の甘い香りを形成するのです」(肥田氏)

 ウイスキーを貯蔵する樽の材質は、オークやナラなどさまざま。樽はそのまま使うのではなく、「チャ―」と呼ばれる内側を焼く作業をしてから使われる。焼き加減によっても色合いや香りは変わってくる。またスモーキーな香りの元となる「ピート」(泥炭)の有無によっても大きく変化する。さらにはブレンドによって、重厚感のあるフレーバーになる。

 ウイスキーの香りは、時間、自然、人が生み出す稀有なものなのだ。