ではワインはどうなのだろうか。
「ワインは酸味(有機酸)、渋味(タンニン)、苦味、ミネラル感などによって味が構成されています。中でも酸味はワインの重要な要素です。日本酒のアミノ酸と同様に、有機酸にも多くの種類があり、代表的なものとして、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸、酢酸、乳酸などがあります。これらの有機酸が複雑に絡み合い、各ワインの複雑な味を生み出します」(肥田氏)

酸味といっても、こんなに種類があるとは思わなかった。ほかの成分についても聞いてみよう。
「ワインでよく言われるところの渋味、余韻、深み、複雑さは、タンニンが関係しています。タンニンは植物由来のポリフェノールの一種で、赤だけでなく白ワインにも含まれています。ワインは色のイメージが味に与える影響が非常に強く、目隠しをして赤白を飲み比べた実験では、赤白を区別できなかった人が多かったという結果もあります。人は無意識のうちに先入観から味を決めつけてしまう傾向があるのです」(肥田氏)
確かにワインは、「赤は渋味があって、重厚な味わい」という先入観をもって飲むことが多い。飲んでみて、いい意味で期待を裏切られると、そのワインの味や銘柄がずっと印象に残る。
ではワインでいうところの「甘口・辛口」は、どういった成分や味覚が関係しているのだろう?
「一般的に甘口といわれるワインを調べてみると、糖の量はそれほど多くはなく、原材料のぶどう由来の甘い香りが関係していると考えられます。一方で、ミネラル感が強いワインは辛口と判断される傾向にあります。ミネラル感が強いと苦味と渋味が強調され、それが喉へとカーッとした刺激を与え、辛口と感じるのです」(肥田氏)
甘い、辛いは糖の含有量だけで決まるものだとばかり思っていたが、そんな単純なものではないのだ。実はこれは日本酒でも言えること。糖の含有量は同じでも、酸度が高ければ辛いと感じ、低ければ甘いと感じる傾向にあるという。人の味覚は本当に複雑だ。