なぜ三菱自動車とホンハイはOEMで合意したのか
三菱自動車とホンハイのOEM提携は、技術力に定評がある日本の自動車メーカーも、海外企業の力をさらに多様な形で借りる必要が出ているということだ。
2006年、三菱自動車は「i-MiEV」(アイ・ミーブ)を発表し、日産と並んでEVシフトの先陣を切ったかに見えた。しかし、投入のタイミングがあまり良くなかったことに加えて、その後の事業戦略は期待されたほどの成果を上げることができなかった。
三菱がホンハイと組む背景を順に探っていこう。一つ目は、自動車業界を取り巻く環境の激変だ。エンジン車から電動車へのシフト、ソフトウエアの重要性が高い「ソフトウエア・ディファインド・ビークル」(SDV)の開発競争など、100年に一度と言われる変革期に、自動車メーカーが生き残るのは並大抵のことではない。
二つ目は、中国メーカーの台頭だ。三菱自動車が何とかシェアを維持してきたASEAN市場において、中国勢の進出は目を見張るものがある。ところがタイなどでは、2022年以降の金利上昇によって経済成長ペースが鈍化し、自動車販売は減少傾向にある。競争は一層厳しくなっている。
三つ目が、日産とホンダの統合が破談に終わったこと。三菱自動車の筆頭株主である日産と、ホンダが経営統合すれば、三菱自動車としても相応の選択肢があったはずだ。しかし現実に起きたのはバッド・シナリオで、三菱自動車としては生き残りを懸けた選択を迫られた。結局、鴻海とのOEM生産の合意に行き着いたのだろう。
それともう一つ、トランプ関税の影響も無視できない。三菱自動車はASEAN市場での収益減少を米国事業でカバーしてきたからだ。同社は米国向けのクルマ全てを国内から輸出している。トランプ関税によって、米国向け輸出で収益を増やすことは難しくなった。
一方、ホンハイは、スマホに次ぐ収益分野として自動車の受託製造を重視している。ただ、今のところ、戦略は想定通りの成果を上げていない。特に、出資した米EV新興企業が、バッテリー調達コストの負担や生産の伸び悩みで破綻した。
ホンハイは、三菱自動車の製造技術が喉から手が出るほど欲しいはずだ。その技術を持ってして、中国市場でのさらなるOEMをも狙っているとみられる。
中国市場では、EVに加えプラグインハイブリッド車(PHV)の需要も伸びている。ただ、価格競争も激化している。PHVはガソリンエンジンの技術も必要とする。ホンハイにとって、三菱自動車が持つPHV製造のノウハウは、是が非でも欲しい要素技術のはずだ。