知的財産や技術が中国へ移転するきっかけになるか

 19世紀に今日の原型となる自動車がドイツで発明された。20世紀初頭に米国でフォードが自動車の大量生産方式を確立したことで、米国の工業化が加速した。第2次世界大戦後、日本は米国に倣って自動車の燃費、耐久性、エンジンの安全性などの製造技術を磨き、世界トップの競争力を手に入れた。

 日米欧の経済にとって、自動車はIT分野と並んで経済成長を支えている。一方で、三菱自動車とホンハイの提携は、自動車分野の知的財産や技術が、中国やアジアの新興国へダイナミックに移転するきっかけになると考えられる。

 しかもEVはエンジン車に比べて、すり合わせ製造技術の必要性が低下するとみられている。もし、三菱自動車の業績が今後も低迷すれば、ホンハイが同社への出資を検討する展開も排除できない。

 それが現実になれば、三菱自動車と関連企業で大規模なリストラが実行されるなど、自動車産業に関する地殻変動リスクは高まるだろう。日本勢以上に業況が厳しいドイツやフランスの自動車メーカーに至っては、一段と追い込まれそうだ。

 ホンハイを先例にして、自動車OEMに参入する企業が増える可能性もある。異業種を巻き込んだ合従連衡が増加すると、大手自動車メーカーの競争力が低下し、自動車の製造を支えた工作機械メーカーの業況までもが不安定になるリスクが考えられる。

 中長期的に見れば、三菱自動車とホンハイの協業がもたらす潜在的な影響は大きい。日本だけでなく、中国、ASEAN、さらに世界の産業構造が大きく変わる重大なきっかけになりそうだ。

 今のうちに、自動車分野をはじめ、わが国企業の経営者は世界経済、先端分野の環境変化に機敏に対応し、新しい需要の創出にコミットすべきと考えられる。