ASEAN市場は日本車の牙城ではなくなってきている

 ホンハイが中国で本格的に自動車の受託製造を開始すれば、中国の自動車産業は変わり、競争は一段と加速するだろう。BYDを筆頭に、ファーウェイやディープシークなどITや人工知能(AI)関連の企業は、自動運転技術など車載用ソフトウエアの開発により多くの経営資源を投入するはずだ。

 すなわち自動車業界でもスマホやデジタル家電のように、垂直統合から水平分業へビジネスモデルの転換が加速するだろう。BYDや浙江吉利(ジーリー)は自動車の設計、開発分野に集中し、ホンハイのような受託製造企業に電動車の製造を委託するケースが増えると予想される。それに伴い、大きな淘汰の波がやってくるかもしれない。

 中長期的な成長が見込めるASEAN市場でも、ホンハイは地歩を固めようとしている。インドネシアやタイには、BYDや上汽通用五菱汽車など中国の自動車メーカー、CATLなど車載用バッテリー企業が進出済みだ。

 中国企業は、ASEANを輸出拠点とすることで世界的なシェアを高めようとしている。米中の対立が激化するほど、インドネシアのように労働力が豊富で賃金コストが低い場所で、自動車を生産する企業は増えるだろう。ホンハイ創業者の郭台銘(テリー・ゴウ)は、そうした企業のハードウエア製造ニーズを取り込むことを視野に入れているはずだ。

 インドを含むアジアの新興国にとって、そうした変化は経済の追い風になるだろう。電動車関連の直接投資を誘致できれば、工業化に大きく寄与する。それは、雇用創出や設備投資の拡大、個人消費を伸ばし経済成長率を引き上げることにつながる。

 すでにタイでは、中国の自動車メーカーの進出によって、わが国の自動車メーカーのシェアが低下しつつある。三菱自動車とホンハイの連携は、ASEAN市場でも自動車の盟主が入れ替わりつつあることを物語っている。