これらの適合の視点は導入期だけでなく、成長期や成熟期においても、プロダクトの変容や再設計を支える土台となります。市場が変わり、顧客が変わり、競争環境が変わるなかで、適合を問い直し続ける姿勢こそが、長く支持されるプロダクトをつくるのです。

スタートアップの「PMF」から始まった
「適合」という視点の背景

 適合の4段階は、近年、急に生まれたものではありません。

 Product Market Fit(PMF)という言葉が注目されるようになったのは、2000年代のシリコンバレー。Netscapeの共同創業者で、現在はベンチャーキャピタリストとしても知られるマーク・アンドリーセンが、ブログ記事でPMFを「市場が製品を求めている状態」と定義し、スタートアップにとって何よりも大切な条件だと強調したことがきっかけでした。

 その後、スティーブ・ブランク、エリック・リースといった起業家が「顧客開発モデル」「リーン・スタートアップ」を次々と提唱し、仮説を立てて検証する、新規事業開発の実践的な方法論が普及していきます。その過程で、PMF以前にも確認すべき段階があるとの認識が広がり、CPF、PSF、SPFといった考え方が現場で言語化されていきました。

 このようにアイデアからPMFまでを段階的に検証するプロセスは「Validation Framework(検証フレームワーク)」や「Lean Product Process(リーン製品開発プロセス)」とも呼ばれます。また、これら一連の流れを「Fit Journey(フィットジャーニー)」と呼ぶこともあります。

 適合の4段階は、違和感や失敗から学び、行きつ戻りつしながら進む“旅”に近いものです。大切なのは、どこかでズレを感じたときに柔軟に立ち戻り、問い直す姿勢を持ち続けること。「当初想定した課題は実は重要ではなかった」「ソリューションに顧客の納得感が得られなかった」といった出来事があれば、前のステップに戻って再検討するのが自然です。不確実な状況の中で仮説を立て、検証し、必要に応じて立ち戻る——この繰り返しによって、プロダクトはより本質的な価値に近づいていきます。

 このアプローチは、日本でも徐々に知られるようになってきていますが、まだ広く定着しているとは言えません。適合の4段階とは、そうした国際的な実践知の1つの整理だと捉えていただければと思います。