
歴史には数々の「失敗」がある。この真実を読み解くことで、時を経て繰り返される現代の失敗に向き合う連載『歴史失敗学』。第8回は、名将であり暴君でもある織田信長を滅ぼそうと企てられた「信長包囲網」をひも解きながら、トランプ政権の政策に各国が対抗する術を考える。(作家・歴史研究家 瀧澤 中)
ヒトラーは侵略の手段まで
世界に表明していた
まさかそこまでやらないだろう、と思っていても、実際にやってしまう独裁者は歴史上決して少なくない。
たとえば、アドルフ・ヒトラー。
ヒトラーは演説や談話、著作『わが闘争』の中で、自分の目標、達成のための手順や手段を具体的に述べ、ほぼそれに従って実行した。なぜ事前に発表されながら、欧州侵略やユダヤ人の虐殺を止められなかったのか。他の国々はもとより、ドイツ人自身もヒトラーを警戒しなかったのか?
しなかった、というのが正解であろう。ふつうの人間はあまりにも過激でばかげた考えに対して、たとえ表明されても実行するとは思わないのである。だが、常識を持つ人間の判断を、彼らは軽く超えてくる。
アメリカのトランプ大統領。
彼もずいぶん以前から、無茶な関税や粗暴な移民政策、改革ではなく破壊に近い行政機関のリストラなどを表明していた。そして、政権を握ったその日から実行に移した。中でも根拠不明な暴力的関税は、世界経済の先行きに大きな悪影響を与えている。
「これ以上攻撃されたくなければディールに応じろ」。中世の暴君さながらのトランプ。止められないのは、彼が世界一の超大国の“君主”だからである。
いったいこれを、どうしたら止められるのか。圧倒的強国に対して、包囲網で対抗した歴史から学
んでいきたい。