忍者はなぜ天下を取れなかったのか?作家の答えが納得感しかなかった写真はイメージです Photo:PIXTA

Netflixで配信中の『忍びの家 House of Ninjas』や、漫画『アンダーニンジャ』など“忍者モノ”が話題を集めている。卓越した情報収集能力と圧倒的な武闘術で、見るものを圧倒する忍者。彼らを題材とした作品は、今でも我々を魅了し続けている。しかしそんな異能集団は、なぜ天下を取れなかったどころか、攻め滅ぼされてしまったのか。歴史をひも解き、その謎を解明していく。(作家・政治史研究家 瀧澤 中)

帝国陸軍のスパイ養成学校では
忍術が教えられていた

 陸軍中野学校――邦画ファンの方なら、市川雷蔵主演の軍事スパイ映画(大映)を思い浮かべるのではなかろうか。映画は、1938年に設立された実在の帝国陸軍スパイ養成学校(当初の名称は「防諜研究所」)がモデル。映画にも描かれているが、情報収集やその伝達方法、外国語や心理学、武器や爆弾の取り扱いなど教育は多岐にわたっていたが、その中に「忍術」があったことは一般にあまり知られていない。

 いくら戦前とはいえ、趣味ではなく実際の諜報員養成のために忍術を学んでいたというのは驚きでもあるが、逆に忍術が実戦的なものであった証左でもあろう。

 その忍術を使って活躍した忍者(「忍者」は後世の名称だが、一般に通用しているのでそのまま用いる)は、卓越した情報収集能力と、圧倒的な武闘術を持つ。地理にも詳しく、合戦時には最も危険な最前線に真っ先に入り敵情を探るのみならず、陣を構えるのに適切な場所を見つけ、さらに敵陣に潜り込んで放火工作など敵を混乱に陥れる。仲間の絆は強く、自分たちの地域に危機が迫れば固い結束でこれを防ぐ……。

 さて。筆者は子どもの頃、祖母と忍者モノの映画を観ながら「なんでこんなにすごいのに、天下を取れなかったのだろう?」と考えてしまったことを覚えている。

 能力が高いのに天下を取れない。それどころか伊賀に至っては、攻め滅ぼされてしまった。いったいどうしてなのか?

 そしてここには、高い技術力やサービス力のある日本の中堅企業が、時に苦戦を強いられることと共通した課題はないのだろうか。本稿では忍者を、彼らの代名詞ともいえる伊賀や甲賀を代表例とし、戦国時代を舞台とする「他国の大名に雇われる下請の異能集団」として考えていきたい。