日本のスナック菓子メーカーが
毎年新作を出すのは無意味

 かつて私は、日本と欧米のスナック菓子メーカーの比較記事を書いたことがありました。

 日本の場合、大手メーカーだと、スナック菓子の季節商品を年に40~50も開発し続けているそうです。そのうち、次年度以降も残るのはせいぜい5品でしょう。そして、そこまで努力しても総売上は全く増えていません。実際、売上の8割以上は、数品のブロックバスター(売れ筋定番商品)が稼いでいるのです。

 一方欧米メーカーは、ほとんど新商品など出しません。プリングルズやキットカットなどの定番商品を変わらず出し続け、新たな商品を作る時は、本格ヒット狙いで練りに練ったものを年に数品出すだけです(欧米企業でも日本市場だけには多様な新商品を出してはいますが──キットカットなどその典型でしょう)。

 なぜ、日本のスナック菓子メーカーは、こんな壮大なる無駄を何年も続けているのでしょうか?

書影『静かな退職という働き方』(PHP研究所)『静かな退職という働き方』(PHP研究所)
海老原嗣生 著

 その背景には、社内に「それが当たり前」という文化が充満しており、その文化は、卸や大手小売りなどからの「季節ごとに集客のネタとなる新商品が欲しい」という声に端を発し、さらには、こんな四季折々の華やぎに慣れてしまった一般消費者の高い要望があるからと言えそうです。

 結局、こうした「顧客要望に向き合う」真摯(しんし)な仕事の進め方がスナック菓子メーカーには染みついており、だから企画部門はフル回転で新商品を開発し、それを販促するために宣伝部門は日夜広告を考え続け、さらに営業は新たな商品を紹介しに足しげく業者を巡る、という「真剣で濃厚なサービスの輪」ができてしまっています。

 ただし、再度書きますが、それでも年間売上は全く伸びておらず、その結果、日本のスナック菓子メーカーは、欧米と比べて売上利益率も投下資本利益率も、著しく低い数字(半分以下)になっている……。

 つまり、日本人が今までやって来た「顧客と真面目に向き合う」働き方は、ブルシット・ジョブ(あってもなくても変わらない意味のない仕事の蔑称)の塊だと言えるのではないでしょうか。