一方日本は、不良品自体を恥ずかしいと考えがちです。だから、不良品発生率を0.1%まで下げるよう努力します。結果、「ジャパニーズ・クオリティ」と世界で評されてもいる。その良き面は私たちも誇らしく思っています。
だけど、この場合、生産数量は不良品発生率の差分となる0.9%増えるのみです。でもそのためには、検品や修繕などで労働時間が2~3割程度延びるでしょう。生産数量はたった0.9%しか増えないのに、労働時間が2~3割延びれば、生産性は大きく下がります。
こうしたことが日本では随所で起きていることに、ぜひとも気づいてほしいところです。
「ジャパニーズ・クオリティ」
という隠語で揶揄される
私はかつて編集長をしていた雑誌で、DHL(配送会社)の部長とグラクソ・スミスクライン(医薬品メーカー)の社員と鼎談をしたことがあります。
その時、グラクソの人が、こんな疑問を投げかけました。
「フランスだと、薬の外箱が汚れていたり、凹んでいたりしてもクレームにはなりません。もちろん、中のタブレットから薬が飛び出たりしていたら問題ではありますが。でも日本では、外箱が汚れているだけで、返品・交換が発生します」
DHL社の部長の答えは、さらにその上をいっています。
「いやいや、そんな外箱が汚れているならまだクレームもわかりますが、私たちが相手にする日本企業だと、荷物を梱包(こんぽう)した段ボール箱に傷があっただけで、文句を言われるんです。だから、欧米のクライアントでも、些細なことでうるさい場合は、『今回はジャパニーズ・クオリティでお願いします』という隠語で揶揄(やゆ)しているんです」
似たような話はいくらでも挙げられるでしょう。欧州であれば、キュウリが曲がっていても、トマトに傷があっても、普通に商品として並べられます。日本だとそれは不良品として値段が落ちるから、農家は繊細な作業を要望され、やはり労働時間が延びる。でも売上は、不良品が捨てられる分、減る……。
おわかりいただけましたか?
丁寧にいい仕事をすればするほど労働生産性は下がり、手を抜くと上がるのです。そういう意味においては、欧州の働き方や日本の「静かな退職者」のそれは正しく、間違っているのは日本の「常識」だと言えそうです。